「明子さんのピアノ」デジタル音源化プロジェクト Chapter2
— 広島から世界へ、受け継がれる響き
2025年、歴史的アップライトピアノ「明子さんのピアノ」の音を未来へ残すために始まった、「明子さんのピアノ」デジタル音源化プロジェクト。
広島で収録された約3,000の音は、響きや質感を一つひとつ確かめながら、最終的に約1,700の音へと再構築されました。明子さんのピアノ デジタル音源化プロジェクト
そして2026年6月。
デジタル音源として受け継がれた「明子さんのピアノ」の響きは、初めて海を渡り、ドイツ・ハンブルクへ。
世界的ピアニスト、マルタ・アルゲリッチ氏を中心に開催される「マルタ・アルゲリッチ音楽祭」の舞台で披露されました。
広島で始まった取り組みが、海を越え、新たな場所へ。
本稿では、ハンブルクで「明子さんのピアノ」の音に触れた音楽家たちの言葉を通して、デジタル音源化によって広がり始めた新たな可能性を紐解いていきます。
— 海を越えた「明子さんのピアノ」
「マルタ・アルゲリッチ音楽祭」は、世界的ピアニスト、マルタ・アルゲリッチ氏を中心に、2018年よりドイツ・ハンブルクで開催されている音楽祭です。
第8回となる2026年は6月20日から30日まで開催され、世界各国から音楽家が集まり、多彩なプログラムが披露されました。
その舞台で披露されたのが、「明子さんのピアノ」のデジタル音源です。
6月27日には、能と音楽を融合した舞台作品『長崎の郵便人』、6月29日には、作曲家・藤倉大氏によるピアノ協奏曲第4番《Akiko’s Piano》で使用されました。
演奏を担ったのは、ピアニストの酒井茜氏。
広島にある「明子さんのピアノ」そのものを移動させることなく、CELVIANOを通してその音を奏でることで、「明子さんのピアノ」の響きが初めてヨーロッパの聴衆へと届けられました。
— その音を、世界へ持ち運ぶ
「明子さんのピアノ」は、世界に一台しかない楽器です。
その音をデジタルとして残すことは、楽器そのものを保存するだけではなく、場所を越えてその響きを届ける可能性にもつながります。
ハンブルク交響楽団の芸術監督/ディレクター、ダニエル・キューエル氏は、今回のプロジェクトについてこう語ります。
キューエル氏
「この特別で唯一無二のピアノの音が、そのまま世界中へ持ち運べるようになる。それは象徴的で、かけがえのない機会だと思います」
広島にある一台のピアノの音が、海を越え、別の場所で再び奏でられる。
デジタル音源化によって生まれた新たな可能性が、ハンブルクの舞台で実際の音となって響きました。
— アルゲリッチ氏が感じる「特別なピアノ」
「明子さんのピアノ」を実際に演奏した経験を持つマルタ・アルゲリッチ氏。
今回のインタビューでも、そのときの体験を振り返りました。
アルゲリッチ氏
「明子さんのピアノは、本当に美しいピアノです。私は実際にそのピアノを弾いたことがあります。あのピアノを演奏することは、本当に胸を打たれる体験です」
そして、その音をデジタルという形で残すことについて、こう続けます。
アルゲリッチ氏
「この美しい音を未来へ残せるのは、本当に素晴らしいことだと思います」
実際のピアノが広島にあり続けながら、その音は別の場所でも奏でることができる。
「音を残す」という試みは、「音を届ける」という新たな可能性へと広がり始めています。
— 《Akiko’s Piano》、ヨーロッパ初演
6月29日に演奏されたのは、作曲家・藤倉大氏によるピアノ協奏曲第4番《Akiko’s Piano》。
この作品は、マルタ・アルゲリッチ氏に献呈された作品です。
その作品が今回、アルゲリッチ氏の名を冠した音楽祭でヨーロッパ初演を迎えました。
藤倉氏
「このコンチェルトは、もともとマルタ・アルゲリッチさんに献呈されてたんですね。それもあってマルタ・アルゲリッチさんの名前のある音楽祭で演奏される。しかもこれはヨーロッパ初演ですから」
《Akiko’s Piano》では、作品の終盤にCELVIANOによるカデンツァが置かれています。
オーケストラの演奏から、「明子さんのピアノ」の音だけが響く時間へ。
その音が、作品の中で大きな意味を持っています。
— ピアノが語る「記憶」
今回、《Akiko’s Piano》の指揮を務めたシルヴァン・カンブルラン氏は、終盤のカデンツァについてこう語ります。
カンブルラン氏
「そのカデンツァでピアノが語り始めると、それは明子ひとりの物語を超え、明子とピアノが紡ぐ物語になるのです」
そして、その先に残るものについて、
「そこに残るのは、記憶の声です。明子とピアノの記憶です」
「明子さんのピアノ」が歩んできた時間と、河本明子さんの記憶。
それらが音楽の中で重なり、一つの音として聴く人へと届けられていきます。
— CELVIANOを通して響いた音
その音を実際にステージで奏でたのが、ピアニストの酒井茜氏でした。
酒井氏は、今回の演奏で客席から感じた反応についてこう振り返ります。
酒井氏
「本当に一生懸命聞いてくださってるのが伝わってきたので、いつもと違う感覚。それがなんか素晴らしかったなと思います」
また、《Akiko’s Piano》のヨーロッパ初演とCELVIANOについて、
酒井氏
「ヨーロッパ初演だったし、やっぱりCELVIANOがなかったら駄目だったんですよ」
「楽器があったからできた曲っていうのは、多分あまり聞いたことないんですよね」
広島で収録された「明子さんのピアノ」の音を、演奏者自身の表現によって、別の場所で再び奏でる。
CELVIANOは、その音と演奏者をつなぐ役割を担いました。
— 音楽を通して、伝えていく
一台のピアノの音を残す。
そこから始まった取り組みは、ハンブルクで多くの演奏家や聴衆と出会い、新たな広がりを見せました。
キューエル氏は、このプロジェクトについてこう語ります。
キューエル氏
「とても美しく純粋で、心を打つアイデアです」
そして、音楽を演奏する意味について、こう続けます。
「私たちの演奏は、単なる彩りではありません。楽しんでもらうだけでなく、伝えたいことがあるのです」
さらに、この取り組みが持つ可能性について、
キューエル氏
「この協奏曲とこのプロジェクト、そしてカシオのおかげで、その想いは世界中の多くの人に伝わるものとなるでしょう」
音楽には、言葉を越えて人へ想いを届ける力があります。
「明子さんのピアノ」の音もまた、演奏され、聴かれることで、新たな場所へと受け継がれていきます。
— 音が語る記憶、響きがつなぐ未来
広島で始まった「明子さんのピアノ」デジタル音源化プロジェクト。
その出発点にあったのは、いつか弾けなくなるかもしれない一台のピアノの音を、「未来へ残したい」という想いでした。
デジタル音源として残された音は、2026年6月、初めて海を渡り、ハンブルクの舞台で再び奏でられました。
音は、記録されたことで終わるのではありません。
誰かの手によって奏でられ、誰かがその音を聴くことで、新たな時間を生きていく——。
広島からハンブルクへ。
そして、その先へ。
「明子さんのピアノ」の響きはこれからも、人の手を通して、世界へ、そして未来へと受け継がれていきます。