OCW-S5000EK DEVELOPMENT STORY 「デザイナー × 江戸切子職人」 特別対談 | CASIO

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エレガントに融合する伝統と革新。
江戸切子が引き出すOCEANUSの魅力とは。

江戸切子の伝統技法が生み出すサファイアガラスベゼルの繊細な光の表情。
OCEANUSマンタならではの上質な仕上げと薄く美しいフォルム。
伝統と革新がエレガントに融合したOCW-S5000EKの魅力を、
江戸切子職人とプロダクトデザイナー、2人の視点からひもときます。

鈴木 貴文

カシオ計算機株式会社 技術本部 デザイン開発統轄部 プレミアムリストデザイン室。「斜光」をテーマに開発された江戸切子とのコラボレーションモデルOCW-S5000EKのプロダクトデザインを担当。

三代秀石 堀口 徹

1976年、東京都生まれ。祖父が江戸切子職人であるという環境のもと、二代目秀石(須田富雄、江東区無形文化財)に江戸切子を師事。2008年、三代秀石として株式会社堀口切子を創業。日本の伝統工芸士(江戸切子)認定。

第1章: 共感

OCEANUSと江戸切子が出逢うとき

先進の技術と上質の仕上げを追求するOCEANUSマンタと、職人の確かな技と感性で独創的な世界観を創り出す江戸切子。それぞれの領域で独自の道を歩んできた両者が手を組むことで、新しく生み出されたものとは。シリーズを重ねるコラボレーションモデルの開発ストーリーを、OCEANUSと江戸切子職人・堀口徹氏との出逢いから探ります。

OCEANUSと江戸切子のコラボレーションの
経緯についてお聞かせください。

鈴木:きっかけは2018年のバーゼルワールドで発表したOCW-S4000Cです。OCEANUSが追求するエレガンスとテクノロジーに新しい価値をプラスするような表現を模索するなか、たどり着いたのが伝統工芸の美しさでした。なかでも、江戸切子はOCEANUSが求めるサファイアガラスの美しさと親和性が高く、その中で新たな美しさに挑戦し続けている堀口さんを知り、カシオからお声をかけさせていただきました。

▲プロダクトデザイナー 鈴木貴文氏

OCW-S4000C-1AJF
(2018年6月)

OCW-S4000D-1AJF
(2018年10月)

OCW-S5000D-1AJF
(2019年10月)

OCW-S5000EK-1AJF
(2022年6月)

堀口:連絡があったときはうれしかったですね。どんなことができるのか期待がふくらみました。ただし、不安があったのも事実です。たとえば、技術的な精度についていうと、切子の世界で扱う単位はミリまでが一般的ですが、時計では0.01ミリが当たり前だと思うんですよね。工業製品である時計が求める精密さに、職人が手がける切子の技法で応えられるかどうか。それも一点物ではなく、量産ベースでのクオリティが求められますからね。

▲江戸切子職人 堀口徹氏

もうひとつが、協業の意義のようなものについて。OCEANUSが江戸切子やその職人であるわたしに何を求めているのか。ビジョンといってもいいかもしれません。たとえば、江戸切子の装飾的で色鮮やかなイメージをそのまま時計に取り入れたいという話なら、技術的にも無理があるし、完成品もいかにも伝統工芸色を押し出したようなものになったでしょう。それではOCEANUSらしさがなくなってしまう。協業の意味がないとお伝えしました。お互いに納得のいくものができなければ、プロジェクトの途中であろうと勇気を持って辞めましょうと。

しかし、提案されたのは当社の製品のひとつ「束(たばね)」のようなイメージでした。シンプルな線と色使いが特長の器です。その方向性ならあり得るかも。面白いものに仕上がりそうだと直感しました。話題性や目新しさだけを狙うのではなく、本質的なものづくりに対するまなざしというか、相手の本気度が見えた気がしましたね。

▲「束(たばね)」を手に当時を振り返る

お互いに目指すべきものが
一致したということですね。

鈴木:とはいえ、はじめの一歩を踏み出すまでには、いろいろな苦労がありましたね。そもそもサファイアガラスにカッティングできるかどうかも手探りの状態でした。

堀口:サファイアガラスの切子は今までになかったと思います。わたしも初めての経験でした。さらに、ベゼルという小さなパーツ上で、筋の太さや間隔、角度などの精度が出せるかという問題もありました。通常の切子では、カッティングの前に「割り出し」というガイドとなる基準線を入れる工程があり、これに沿って筋を刻みます。しかし、小さなベゼルパーツに極細の基準線を入れるには、わたしたちが普段使っている割り出し機では精度が出ないことがわかりました。どうすれば、うまくいくだろう。いっそ基準線をメーカー側で入れてもらう方法はないだろうかと打診しました。

鈴木:相談を受けてカシオ側から提案したのが、レーザーで基準線を入れるという手法です。具体的には、一度ベゼル全体に蒸着を施した後、出力の弱いレーザーで基準線以外の被膜部分を剥離します。これにより、精密な図案をパーツ上に正確に再現でき、カットの精度と効率も飛躍的に高まります。

堀口:いま思えば、このレーザーの割り出しこそが、すべてのターニングポイントだったと思います。これがなければ、今回のモデルはもちろん、第1弾も完成していなかったかもしれません。

▲割り出しの重要性について語る堀口氏

まさに伝統技法と先進技術の融合を
絵に描いたようなエピソードですね。

鈴木:分業ではなく協業だからできたことだと思います。依頼して後はお任せという関係性ではなく、同じ目線でひとつの目標を見据え、それを実現するためにアイデアを出し合い全力を尽くす。お互いのよさを足し算でなくかけ算にすることこそ、コラボレーションの本質のような気がします。

堀口:そうですね。コラボレーションという新しいチャレンジを通して、江戸切子がOCEANUSのレガシーの一部になれた気がしています。切子の表現方法やレーザー割り出しなどの加工技術が、OCEANUSクオリティを構成するエッセンスのひとつに加わったと捉えていただけるとうれしいですね。

江戸切子は、伝統のスタイルを守りつつも、時代の求めに応じて姿や形を柔軟に変えてきました。残すものは残し、今までにないものを新しく加えていく。そういうことを脈々と続けてきたからこそ、伝統工芸として成り立っているといえます。そういう意味で、このコラボレーションが一過性のものではなく第4弾まで継続できたことは、OCEANUSと江戸切子の双方にとって意義のあることではないかなと思っています。

▲デザイナーと江戸切子職人。2人の想いが交錯する

第2章: 共創

「斜光」。美しさに込めたこだわり

そして、OCEANUSマンタと江戸切子のコラボレーションモデルは第4弾という新たなステージへ。最新作OCW-S5000EKのデザインコンセプトは「斜光」。新たな挑戦に込められた作り手の想いとは。ものづくりに対するこだわりについて伺いました。

「斜光」というテーマは、
どのように生み出されたのでしょうか。

鈴木:堀口切子の作品に「よろけ縞」というグラスがあります。これを使っていたとき、テーブルに光の筋が斜めに走ったんです。その伸びやかで美しい光の表情から発想しました。そのうえで、前シリーズのように円心状にカットしたり、格子状にカットしたりするのではなく、あえて中心点をずらし躍動感を出してみたらどうだろう。新しいスタイルで江戸切子の世界観を表現できるのではと思いました。

▲着想の原点となった堀口切子「よろけ縞」

具体的には、江戸切子の伝統技法のひとつ「千筋」をベゼルに放射状に刻みます。そのとき、中心点を文字板中央ではなく9時側インダイアル中央にずらすことで、斜めから光が差し込み、美しい陰影を創り出す様子を表現しています。

堀口:初めて聞いたとき、技術的には今までより難易度は高いけれど、できるという確信はありました。コラボレーションを続けるなかで、できることとできないことがお互いにある程度わかってきていたので、イメージはしやすかったかなという感じです。

鈴木:第4弾ともなりお互いの意思疎通が早く、方向性も早い段階で決まっていました。そのぶん完成度を上げる作業に専念できたと思います。たとえば、カッティングラインの太さは、微妙な違いで全体の印象が大きく変わってしまうため、かなり細かく指定させていただきました。線数も9時側と3時側で密度が異なるので、見た目のバランスと作業効率を考えながら検討を重ね、最終的には40本に落ち着きました。

▲9時側インダイアルを中心に放射状に40本の筋を刻む

製作を行ううえで
苦労したことはありましたか?

堀口:普段の作業と異なる点でいうと、最も苦労するのは素材ですね。クリスタルガラスなどの柔らかい素材と違い、サファイアガラスは非常に硬く、まるで金属を削っているような感覚です。そのため「目立て」とよばれるホイールを研ぎ直す作業を頻繁に行いながらカットしていきます。

▲変則的な文様を堀口氏自らひとつひとつ丁寧に刻んでいく

サイズが小さいため持ちにくく、安定して刃を当てるのにも気をつかいます。なかでも今回の作品は、微妙に角度や長さが異なるラインを何本も削る必要があります。これが大変でした。通常の切子では中心に向かって角度、間隔を均一にカットすることが多いのですが、中心がずれていると職人として体に染みついている感覚で無意識に補正してしまう恐れがあります。ですから、いつも通りの感覚を研ぎ澄ませながら、同時にその感覚を押さえ込むというイメージで作業しました。

▲割り出し用の図面と見比べると、その精緻さがよくわかる

鈴木:難しいオーダーにもかかわらず、ひとつの失敗もなく完璧にこなしていただきました。数千に及ぶカッティングラインのすべてを手仕事で寸分違わず正確に刻む技術も驚きですが、ひとつひとつの筋に現れる美しいV字のカット面も素晴らしい。これほどきれいに頂点を出せるのは、まさに職人技ですね。

堀口:わたしたちは「芯が出ている」という表現をします。切子職人として大切にしていることのひとつです。カット作業そのものは数分ですが、そこに到るまでに時間と手間をかけるのが、匠や伝統といわれる所以なのかもしれません。技を身につけること、割り出しや目立てを正確に行うことはもちろん、先人が残してくれたもの、新しく取り入れたものなど、工程のひとつひとつにはそれを支える背景があります。だから、作業時間も正確には「20数年と数分」という言い方がふさわしいと思います。

カッティング以外のこだわりに
ついてもお聞かせください。

鈴木:江戸切子の美しさを際立たせるため、カッティングラインにシルバーの蒸着を施しています。数種類の色調を用意し、何度も検討を重ねました。暗すぎるとせっかくの切子が目立たなくなる反面、明るすぎると主張しすぎてビジネスなどフォーマルなシーンでの着用に合わなくなります。ちょうどいい色味に仕上がったのではないでしょうか。

さらに、9時側から3時側に向けて伸びやかさを増す切子のカットにあわせて、ブラックからブルーに移り変わるグラデーションを蒸着処理で加えました。ブルーはOCEANUSのブランドカラーでもあるので、色味の調整はとくにこだわっています。そのなかで、予期せず紫の色合いが出たのは、うれしい誤算でしたね。色の移り変わりに新しい表情が加わり、より情緒的な世界観を生み出しています。

▲カット面にシルバー蒸着を施し、全体にブルーブラック蒸着を施す

堀口:色が入るとまた印象が変わりますね。切子の抑揚と色味の抑揚が調和して、伝統技法と先進技術の融合を表現しているのも面白いと思います。OCEANUSらしさと江戸切子らしさ、それぞれの良さがバランスよく出ているのではないでしょうか。

第3章: 共鳴

響き合う感性の先にあるもの。

2022年6月、江戸切子モデルの最新作OCW-S5000EKがいよいよ発売されます。この日、初めて完成品を手に取ったという堀口氏。ファーストインプレッションを伺う貴重な瞬間に立ち会えました。そのなかから作り手として感じた出来映えや手応え、これから手にするユーザーに向けて、作品の見所、楽しみ方などを聞きました。

完成したOCW-S5000EKを
初めて見た印象はいかがですか。

堀口:いいですね。かっこいいです。いいものができたという手応えは第1弾のときから毎回ありましたが、今回も自信をもっておすすめできるものに仕上がったと思います。切子ベゼルの存在感を際立たせながら、文字板を深みのある黒にすることでフェイス全体に統一感が出ていますね。

▲最新作について語る堀口氏と鈴木氏

鈴木:文字板は漆黒で仕上げています。インダイアルソーラーの採用により実現しました。さらに、ベゼルをセットするチタン製の台座の内枠にグレーIPを施し、ベゼルと文字板との一体感を持たせています。

切子ベゼルに採用したグラデーション蒸着もそうですが、インダイアルソーラーも第1弾のときにはなかった技術です。テクノロジーの進化により、表現の幅が広がったことも大きいですね。

堀口:9時側インダイアルリングの色味が、ベゼルと対称になっているのも面白い。秒針にもさりげなく青が入っていて、新鮮なイメージです。

あと、手に取るとわかりますが、チタンの軽さは一度使うと離れられなくなりますね。バンドもOCEANUSマンタおなじみの矢羽根型のデザイン。ファンにとってはうれしいのではないでしょうか。

▲チタン外装もOCEANUSの魅力のひとつ

どのような人に、
どのような楽しみ方をおすすめしたいですか。

堀口:OCEANUSといえば、自分らしい本質的な基準をきちんと持っている人が着けるイメージがあります。ステータスやコレクションの価値だけを追い求めるのではなく、ライフスタイルにあったものを選び、ビジネスでもプライベートでも、日常使いできることを重視するといったような。

▲シャツスタイルに映えるOCW-S5000EK

そういう意味で、今回のモデルもいろいろなシーンで着用してもらいたいですね。眺めて楽しむのもいいですが、身につけてその時々の表情の変化を楽しんでもらいたい。色、光、輝きなど、写真で見るのとは違う新しい発見が絶対にあるはずです。江戸切子の楽しみ方と似ているかもしれませんね。

鈴木:わたしのおすすめは、見る角度や照明の当たり方、腕を傾ける仕草ひとつで表情が変わるところ。とくに、太陽光の下で見ると、ベゼルの青がとても鮮やかな輝きを放ちます。もちろん、スーツスタイルにもカジュアルルックにも合うOCEANUSらしいデザインもこだわりポイントのひとつです。人から「その時計いいですね」といわれて、「実は江戸切子なんです」みたいに答えられたら、ちょっとおしゃれですよね。

▲品のある姿はジャケットスタイルとも好相性

コラボレーションを振り返ってみた
感想についてお聞かせください。

堀口:わたしは常々モノには魂が宿ると信じています。それは、作り手のこだわりであったり、作られた時代背景であったり、使う人への想いだったりするわけですが、新しい商品ができたとき、心の底から自信をもってできた商品と、少しでも妥協や違和感があった商品では、どこかに違いが出ると思っています。

その点、今回の作品はメーカーと職人がそれぞれの領域で、できることのすべてを注ぎ込んだ意欲作です。単に伝統工芸の名前を借しただけの作品にはしたくなかったという想いがあります。そのうえで、江戸切子の技術がOCEANUSというブランドのなかに根付き、アイデンティティの一部になってくれればうれしいですね。それこそ、江戸切子が生きた証拠。伝統という長い歴史に新しい1ページを刻むことにつながります。

鈴木:今回のコラボレーションは、OCEANUSらしいデザイン、江戸切子らしい表現、第4弾としての目新しさなど、様々なピースをパズルのように組み合わせ、どれも損なわずに落としどころを見つける作業だった気がします。大変ですがやりがいのある時間でした。そのなかで、お互いの価値を高め合うような関係性を築けたことが一番の成果ですね。

OCEANUSから江戸切子を知ってもらったり、江戸切子からOCEANUSのファンになったり、いろいろな人にそれぞれの良さが伝わり、広がっていけばいいなと思います。

▲江戸切子とOCEANUS。それぞれのこだわりをぜひ店頭で

     

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