
使うたびに心地よさが広がる、
“新しい定番”を目指す電卓ができるまで
2025年で電卓発売60周年を迎えるカシオから生まれた新しいデザイン電卓Comfy。シンプルで洗練されたフォルム、環境への配慮、そして暮らしになじむ快適さを追求した一台です。カシオの若きデザイナーが挑戦と情熱を込めて創り上げるまでの開発ストーリーを紹介します。

カシオ計算機株式会社
デザイン
岡 駿佑

カシオ計算機株式会社
デザイン
新井 大地
おしゃれなだけではない、今の時代にふさわしい電卓とは
「洗練されたショップのレジ横などに置いてもらえるようなおしゃれな電卓を作りたい」
現場を知り尽くした営業部からのさりげない一言が、Comfy誕生のきっかけでした。普段は企画部署からの提案を受けてデザインすることが多い中、今回のプロジェクトはデザイン部が主体となって進めることになったため、製品化に向けた深掘りの作業が重要だったと岡氏は話します。ただおしゃれなだけではなく、今の時代に求められる電卓の形を見極めることがプロジェクトの鍵となりました。


長い歴史の中で電卓はすでに形や機能が固まっている印象がありますが、それでは新しいものは生み出せません。当たり前になってしまっているところをもう一度疑い、仮説を立て、さまざまな人へのアンケートや調査を重ねて、電卓のこれからのスタンダードとなるべき形を模索しました。
デザインも中身も、長く愛される電卓を求めて
スタート時に掲げたテーマは「タイムレス」。流行に左右されないロングライフデザインで、機能、価格も含めて、すべてにおいて”ちょうどいい”電卓を目指しました。複数の案を検討し、2パターンの試作品を制作。伝統的な良さと客観的な今の感覚のバランスをうまく取る意図で、電卓事業部のベテラン社員や、電卓品目を越えた部署の社員、さらにはユーザーを想定した一般の方々など、さまざまな人たちに見てもらったそうです。



試作品は、丸みを帯びた優しい形状と、直線的でクールな形状の2種類を作り、長年電卓に携わってきた人にも、普段あまり電卓に関わらない人にも幅広く意見を伺いました。ここまで入念に調査を行ったのは電卓では初めてだったのではないでしょうか。調査の結果、『さりげないおしゃれさ』が支持され、現在の形に決まりました。コンセプトも『心地よさ』という方向性に落ち着いたのです。

上段の3モデルが製品のベースとなった試作品で、下段2モデルが比較対象となった直線的なデザインの試作品。
環境に配慮することも、ロングライフデザインには不可欠
開発においては、素材の選定も重要だった、と新井氏は話します。Comfyは再生樹脂を本体に採用。環境への配慮を組み込むことで長く愛される製品を目指したそうです。さらに、白と暗いグレーのマイカ(雲母)を練り込み、エコ素材らしい粒感のある風合いを実現。表面にはシボ加工を施し、サラサラとした手触りと、持ったときの安定性を両立しています。



若い世代の関心が高く、カシオのミッションにおいても重要なエコを意識し、再生材を使うことは早い段階で決めていました。マイカの配合率はわずかな変化でも見た目の印象が変わるため、何度も試作を繰り返しています。また、今の時代や使う人にフィットするカラーリングとして、くすみ感のある5色を用意しているのですが、ベースカラーが異なると粒感の目立ちやすさが変わるため、色ごとに白とグレーの割合を微調整しています。

再生ABS材にマイカを加えて粒感をプラス。側面のシボは、持ちやすさや傷が目立ちにくいことを考慮して粗めに。一方で、操作面のシボは、美しく印字されるよう細かめにするなど、面ごとに異なる仕上げを施しています。

グレイッシュな5色のカラーラインアップ。心地よい使用感と、さまざまな空間へのなじみやすさを兼ね備えています。
こだわり抜いた、
心地よさを生み出すためのディティール
この電卓の名称「Comfy」は、Comfortable(快適な)の省略形。見た目だけでなく使い心地を含めたあらゆる面で徹底した心地よさを追求した製品に仕上げています。そのこだわりのポイントをお二人にお伺いしました。


計算に不要なソーラーパネルを側面に移動
通常正面に配置されるソーラーパネルを、視覚的に取り除くために側面へ移しました。側面では光を取り込む効率が下がるため、大きめのソーラーパネルを使用したり、形状や角度を工夫することで発電能力を確保しつつ、すっきりとしたデザインを実現しています。

スマートで現代にふさわしい表記を追求
税抜・税込などの印字や液晶表示を英語に変更することで洗練された印象に。また、消去キーは従来の三角形の矢印から、パソコンのデリートキーで使用される表記を採用し、現代的で直感的な使いやすさを追求しています。

開閉式の背面スタンドで使いやすく
テレワークなど現代の働き方を考慮し、さまざまな場所での使用を想定した結果、持ち運び時にはフラットに収納でき、使用時には打ちやすいよう角度がつけられるスタンドを採用しました。スタンドについたゴムは一体成型で外れにくくなっており、立てたときはもちろん、閉じた状態でも滑り止めとして機能するように工夫しています。

カシオミニのフォントを復活
フォントは常に使う人の目にふれる重要な部分です。キーフォントには、電卓の原点に立ち返り、1972年に発売され大ヒットした『カシオミニ』と同じものを採用しました。読みやすさと可愛らしさを兼ね備えたデザインが特長で、時代を超えて愛される印象を与えることができると考えました。
ソーラーパネルの移動や開閉式スタンドの設置などにより、内部スペースをどう確保するかは、設計の方とかなり調整を加えたそう。このように大胆に変更を加える部分がある一方で、キーごとの凹凸の最適化や押し心地、カシオ独自のキー配列など、電卓メーカーとして長年培ってきたノウハウは継承し、使いやすさを徹底的に追求しました。
人と、暮らしと、あしたに寄り添う、Comfyの新しい可能性
こうして数年の開発期間を経て形となったComfyは、すべてが挑戦の連続だったとお二人は振り返ります。最後に、電卓ユーザーの皆さまへメッセージをお願いしました。
「この電卓は、デザイン性だけでなく、あらゆる面にこだわり抜いて作り上げた一台です。ぜひ手に取っていただき、使うことで初めて感じられる『Comfy』ならではの心地よさを体感していただけたら嬉しいです」
2024年11月、カシオは『驚きを身近にする力で、ひとりひとりに今日を超える歓びを。』というパーパスを策定しました。1957年に発売された小型純電気式計算機『14-A』以来、一貫してひとりひとりに寄り添い、持つ歓び、使う歓びを提供する製品づくりに取り組んできました。その想いやアプローチはComfyの開発にも息づいています。
「この電卓が、新しいスタンダード電卓として長く皆さまに愛されることを願っています」
お二人はそう語り、未来への可能性に胸を膨らませました。
