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左:橋本 麻里恵
開発本部 開発推進統轄部 第一開発推進部 13開発推進室 リーダー

右:小笠原 聡美
営業本部 マーケティング統轄部 楽器マーケティング部 戦略室

右奥:許 真理子
開発本部 デザイン開発統轄部 第三デザイン部 ブランドデザイン室

ライフスタイルピアノという、全く新しいジャンルを開拓したPriviaシリーズ。
今までになかった価値観を表現し根付かせることの難しさは、音楽に限らずすべての分野において、ビジネスに関わったことのある方々なら想像に難くない。
そんなPriviaがユーザーに届くまでの道のりに携わった橋本 麻里恵さん、許 真理子さん、小笠原 聡美さんの3人に、ライフスタイルピアノとしてのPriviaを根付かせるためにどのような想いを持って取り組んできたのか、フラグシップであり最新モデルのPX-S7000の制作秘話を中心に話を聞いた。

──そもそも「Privia」はどのように生まれたのでしょうか。

橋本麻里恵:Priviaは今から20年前、お客さま一人ひとりが自由に音楽に触れられる「プライベートピアノ」として誕生しました。
それぞれのライフスタイルと調和するスタイリッシュなデザインというコンセプトは、当初から今に至るまでずっと一貫したものです。
音質や鍵盤タッチといった「楽器」としての本質的な部分はもちろん、演奏をより楽しめるための機能を充実させることにもこだわりました。

──Priviaにもさまざまな種類がありますが、たとえばよりカジュアルに楽しめるモデルであるPX-S1100と、フラッグシップモデルであるPX-S7000にはどのような特徴があるのでしょうか。

橋本:PX-S1100は卓上型で、本格的なピアノ演奏を自分の部屋や好きな空間で楽しむことができます。
フラットな形状で光沢感のある天面パネルのUIとデザイン、豊富なカラーバリエーションはどんな部屋にもマッチするはずです。
一方、最新モデルのフラグシップモデルのPX-S7000はスタンドやペダルが一体型となっているのが最大の特徴です。
しかも従来のピアノのように「壁際」の設置に限定されず、部屋のどこにおいても演奏が楽しめる画期的なデザインとなっています。

──「スタンド・ペダル一体型」というコンセプトは、開発当初から決まっていたのでしょうか。

橋本:はい。ただし最初は4本脚だけでなく、この完成品とは全くかけ離れたデザインも候補に挙がっていました。
CASIOの場合、まず製品開発チームが楽器の構造を決めてからデザインチームに引き継ぐのが通常のプロセスなのですが、PX-S7000の場合は製品開発とデザインを同時に進めていく必要があったため、筐体を4本の脚で支えるデザインに決まるまで、何度も試行錯誤を繰り返しました

──その試行錯誤はなぜ必要だったのでしょうか。

橋本:まず、壁際への設置を想定する典型的なアップライトピアノの形にとらわれたくなかったんです。
部屋のインテリアに調和するためには「壁際への設置ありき」ではないピアノにしたいという強いこだわりがあったため、360度どこから見ても美しいデザインであると同時に、機能的にもさまざまな条件をクリアしなければならなかったのです。

──既存のPriviaに、ただスタンドとペダルをつければいいわけではなかったのですね?

橋本:それでは全く成り立たないんです(笑)。ピアノって、打鍵した時に前に押すような力が働きますし、ペダルを踏む力も加わるので少しでもガタつくと演奏に支障が出てしまう。そういう「ガタ付き」を抑え、誰が弾いても心地いいバランスを取りつつデザイン的にも美しくするためには大変な苦労が伴いました。

──「ハーモニアスマスタード」という非常に印象的なカラーリングもPX-S7000が持つ魅力の一つですが、この色味調整も何ヶ月もかかったそうですね。

許:プロダクトデザインのチームが、実際に色々なインテリアショップを巡り、さまざまな家具を見ながら吟味しました。
このなんともいえない絶妙な色味を出すまで、何度も調整を繰り返しました。ちなみに最初の段階では青や緑などの案も出たんですよ。
でも、ライフスタイルと調和しながらピアノもインテリアも両方が引き立つ色を求めていくなかで、この「ハーモニアスマスタード」に定まっていきました。

──楽器店を視察するのではなく、インテリアショップのデザインを参考にしているところもPX-S7000のユニークな点だと思います。

橋本:筐体の背面に搭載されたスピーカーから出た音が、360度どこから聞いても「よい音」である必要がありました。
最初に申し上げたとおり、「ピアノは壁際に設置するもの」という既存のルールから自由になったPX-S7000を、たとえばリビングの真ん中に置いて、ソファに座って聴いてもダイニングで聴いても同じように聴こえるにはどうしたらいいか。
空間での音の響きや広がりをとことんまで追求しているところは、楽器というよりもオーディオ機器に近いかもしれないです。

──打鍵のニュアンスや、鍵盤そのものの構造へのこだわりについてはいかがでしょうか。スリムでスタイリッシュなデザイン。
それに合わせて鍵盤を短くするのは大変でしたか?

橋本:とても大変でした(笑)。打鍵のニュアンスは、グランドピアノの持つ重みや弾力性、音の立ち上がりの速さなどを追求しました。
鍵盤そのものの外観にもこだわっています。スプルース材という、本物のアコースティックピアノに使用されている木材と同じものを使用し、鍵盤の横からちゃんと木目が見えるように仕上げました。鍵盤の表面も、象牙の持つニュアンスに近づけるためにオクターブ内で1鍵づつ、表面の加工を変えています。外観も機能も細部までこだわっていますので、演奏した方が「これはデザインだけではないな」と感じてくださるのではないでしょうか。

──試行錯誤の末にようやく完成したPX-S7000は、すぐに発売されたのでしょうか。

小笠原:実はそこからも長かったんです。これまでのお話に出てきたように、従来のピアノとは全く違う世界観の持った新しいモデルですので、ビジュアルの打ち出し方も従来とは違う方法にする必要がありました。普段のビジュアルは楽器にフォーカスをして作り込んでいくのですが、Priviaの場合は「In Harmony with Life」というブランドステートメントを打ち出しているため、「ピアノのあるライフスタイル」もしっかり見せていきたいという思いがありました。

──それを表現するために心がけたことは?

許:ピアノがライフスタイルに調和する様子、それは「目立たない」とか「邪魔にならない」という意味ではなく、「その存在があることで、その空間や生活が引き立つ」ということ。そんな製品の魅力を直観的に知ってもらうために、ビジュアル構成をどうすれば良いか、特に小笠原さんとは議論を重ねましたね。

小笠原:私たちがPriviaとともに提唱したい上質な生活とは何か、「心地よさ」とはどういう状況を指すのか。
ビジュアルに表現するべき言葉一つ一つを、制作してくださるチームの方々も一緒に時間をかけて深堀りしました。

許:ブランドデザイン室では、いつも新製品を作るときに「コンセプトアート」を作成するんです。
光の入り方からブランケットの質感まで、細部まで細かく設定することで、商品が持つテーマやコンセプトやシーンを、社内全員が共通のイメージで認識し一丸となって進めることができます。
その世界観がどういったものなのか、楽器を持つことでどんな体験ができるのかを共有するための「コンセプトアート」はとても重要です。

小笠原:社内では、コンセプトアートを「Privia バイブル」と呼んで重宝しています(笑)。実際に表現するにはとても苦労して、PX-S7000の持つテーマや世界観を伝えるため、撮影には何日もかかりましたね。もちろん、空間もしっかり見せなきゃいけないけど、楽器の魅力も伝えなければならない。お客様にどうやったら私たちのステートメントを届けられるか。
撮影現場でもギリギリまで議論しながら作っていきました。

──そんなPX-S7000の魅力を、ユーザーにはどのようにして伝えているのでしょうか。

小笠原:私たちマーケティング部はコミュニケーション戦略や販売戦略の企画立案推進、PRの実施までブランディングやマーケティングに関わるあらゆる領域に介在しています。
まずは、グローバルにリレーションを築かせていただいているアーティストの方々や、今回をきっかけに新しく関わってくださったアーティストの方々に実際に試奏していただき、音の良さや打鍵のニュアンス、機能性など「楽器」としての基本的かつ本質的な部分をそれぞれの視点で評価していただいてきました。

それと並行し、ライフスタイルと調和するピアノ「Privia」のニューモデルとしてまったく新しい提案していくにあたり、たとえばligne rosetさんやVOGUE JAPANさん、関家具さんといった、それこそずっと人々のライフスタイルに寄り添い続けてこられ、私どもの製品コンセプトに共感してくださる企業とパートナーシップ関係になり、協力してプロモーションを実施しました。
アーティストの方々、ご協力いただいた企業の方々、皆様想いを持って一緒に取り組んでくださり、何よりユーザーの皆様からも良い反応が返ってきて、とてもうれしかったです。

──今回の対談で、みなさんが「Priviaシリーズ」を心から愛していることがよくわかりました。
そうしたモチベーションはどこからきているのでしょうか。また、CASIOというメーカーならではの魅力についてもお聞かせください。

小笠原:個人的なエピソードになりますが、私は子供の頃からずっとピアノを習ってきました。だからこそ、ピアノの楽しさと同時に大変さもよく理解しています。ただ、楽器がある暮らしって本来とっても楽しくて素晴らしいもの。ピアノ演奏が皆様にとって、もっと身近なものになってほしいですし、音楽の、楽器演奏のあるライフスタイルが少しでも豊かなるお手伝いができたらと思っています。
そしてそういう同じ想いを持つ仲間と一緒に仕事が出来るこの環境をとても愛しています。

許:CASIOは音楽の「楽しさ(enjoyment)」を何よりも大事にしているメーカーです。私は鍵盤演奏ができないので、  ストイックに練習することよりも、いろんな人が純粋に音楽を楽しめるよう、楽器としてのハードルを低くして親しみやすくするCASIOの姿勢にとても共感できます。そんなCASIOのことをお客様にも好きになってほしいという想いでブランドデザインをしていますね。

橋本:CASIOはアコースティックピアノは取り扱っていないからこそ、「電子ピアノ」を最重要におけるんです。
今回のPX-S7000のように、壁際に設置するトラディショナルなピアノのイメージを打ち壊すような自由な発想も生まれやすいのかなと。
そういう柔軟さが、クラシックだけでなくジャズやロック好きの人々にも刺さるのではないかと思います。
そういう一人一人のプレイスタイルに自由にはめてもらえるような楽器作りを今後もしていきたいですね。

Priviaがライフスタイルピアノに至るまでの歩みや秘密を垣間見えたように思う。なにより彼女たちの感性や熱意には驚くばかり。
彼女たち自身がPriviaを愛し、それを多くの方へ届けたいという想いがこのブランドを生み出し、全く新しい価値や文化を作り出したのだろう。

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