

サプライチェーンDX・物流DXのカギはソフトウェアにありAndroid™ OS端末移行を想定して開発した「Biz/Browser」が好調
text by月刊「LOGI-EVO」編集長 片岡信吾
月刊「LOGI-EVO」は、2021年8月に創刊されたあらゆる産業に関わるロジスティクスの総合専門誌です。

(株)オープンストリーム
執行役員
プロダクト事業本部
本部長
山本 聖 氏
物流2024年問題が一般報道でも数多く取り扱われようになり、この問題に対する認識が急速に広がっている。新型コロナ禍でサプライチェーンのレジリエンス、とりわけ物流の継続性の重要性を痛感したばかりの事業者・消費者は物流2024年問題が抱える事態の深刻さに狼狽しながらも、この問題の解決に取り組み始めた。サプライチェーンDXや物流DXの推進はその取組の中核であることは論を俟たない。近年、製・配・販の各現場では、ハンディターミナルやバーコードリーダなどの情報端末機器を使用し、部品・製品に紐づくデジタルデータを収集・管理するオペレーションへの移行が進展しており、そのオペレーション実現に不可欠な専用アプリケーションの開発・運用ツールであるミドルウェアの重要性も再認識されてきている。
そこで、今回は、サプライチェーンDXや物流DXで豊富な実績を持つミドルウェア開発ベンダー、(株)オープンストリームの執行役員プロダクト事業本部本部長である山本聖氏にインタビューし、我が国のIT活用・DX推進の現状や課題、同社の事業展開、製品、今後の計画などについて話を聞いた。
お忙しいところ、大変にありがとうございます。まずは貴社の概要から伺いたいと思います。
山本:当社は2000年に設立されて以来20年以上に渡り、IT分野で事業を展開してきました。当社事業は、システムインテグレーションを展開していくSI事業と、当社開発製品を販売するプロダクト事業の2つを基軸としており、プロダクト事業ではスマート工場ソリューションを中心とした製品のほか、業務専用ソリューションを開発し、提供させていただいています。
2022年度は、特にハンディターミナル向けローコード開発プラットフォーム「Biz/Browser」(「Biz/Browser」にはデスクトップPC向けなどもある)のバージョンアップに関する大型案件をビッグユーザー様から受注させていただくなど、受注活動が好調に推移し、2021年度比で業績を大きく伸長させることができました。今年度もその勢いのまま順調に事業を展開しています。
ハンディターミナル向けの「Biz/Browser」が業績をけん引し、ご好調とのことですが、その要因をどのように分析されていますか。
山本:当社製品の優位性を認めていただき、新規のお客様の開拓が進んだほか、長期でかつ大規模でご採用いただいている既存のお客様のバージョンアップに関する案件を着実に受注させていただいたことがその要因です。バージョンアップに関しては、当社製品導入当初からロードマップを提示させていただいており、そのタイミングで次世代後継互換製品へのバージョンアップをご提案することにより、お客様のシステムがシームレスに支障なく稼働する環境を整備させていただいています。
昨年度はそのタイミングが重なったこともありますし、「Biz/Browser」については、販売代理店様の開発アプリケーションがお客様から高く評価され、受注を増やされたことも大きく、その分「Biz/Browser」のライセンス契約が伸長したと認識しています。また、アライアンスパートナーとの連携もうまく進んでおり、これも業績伸張につながりました。
ありがとうございました。では、我が国のIT活用、あるいはDX推進の現状と課題についてご認識をお伺いしたいと思います。
山本:個人的な見解になることをご了承いただいたうえで申し上げますと、グローバル化の進展を背景に我が国でもITリテラシーの向上が顕著になってきていると感じています。大手企業はもとより、幅広い企業層でITリテラシーのある人材を積極的に育成・確保しているからでしょう。
以前はハンディターミナルを使用した作業・業務管理システムの導入においても、システム構築はSIerなどのIT企業にお任せで、ユーザーはできあがったシステムを使えればいいという風潮がありましたが、近年はシステム構築にこだわりを持ち、インターフェースや機能などについて積極的にご意見を話されるお客様が増えています。民間産業だけでなく公共サービスなど社会の様々な場面でハンディターミナルに限らずスマートフォンなどの情報端末を活用したシステムが導入されており、社会全体の意識改革が徐々に浸透し、大きなパラダイムシフトにさしかかっているのではないかと思っています。我が国も海外先進国に比べて遅れてではありますが、今後ITの活用がさらに広がり、DXが進展するものと見ています。
各企業のITリテラシーが向上し、DXが進展していけば、現下の課題を乗り越える希望が見えてきます。
山本:そうですね。ただ、我が国産業がIT活用に関してたどってきた歴史を鑑みると、ブラックボックス化された業務・管理領域が放置されたままになっている企業が少なくないというのも現実です。社会全体が急速にDXへの方向に進んでいるなか、こうした企業が変革のスピードに耐え、生き残っていけるのかどうか、という部分には一抹の不安もあります。
一方、我が国産業のIT活用・DX推進にあって、AIの開発が急速に進展しているという事実も見逃すことはできません。今後のIT活用・DX推進にあってAIは欠かせない存在であり、AIをどのように利用し、受け入れていくか、ということが重要になるからです。その点、我が国産業はIT活用・DX推進の初歩的段階にありますから、逆にAIをその飛躍のバネにすることができるかもしれません。これまでIT化というと、昭和的な発想でハードウェアの側面ばかりに関心が集まっていましたが、今後はそのハードウェアを動かすシステムやアプリケーション、ソフト面でのサービス、AIの有効活用などが選択の基準になると見ています。
ありがとうございます。我が国産業におけるIT活用・DX推進の課題と今後の進むべき方向性がはっきりしたように思います。では続いて、製造・物流分野でご好評のハンディターミナル向け「Biz/Browser」について、その概要や展開についてご説明いただけますでしょうか。
山本:ハンディターミナル向け「Biz/Browser」は、ハンディターミナルOSでこれまで主流だったWindowsOSのサポート終了に鑑み、Android OSに切り替わることを想定して開発し、4年前にリリースしたものです。カシオ計算機さんが国産ハンディターミナルメーカーとしてAndroid OS製品を市場に送り出したのもその頃だったと記憶しています。
また、先ほども申し上げましたが、こうした流れを踏まえ、今後どのようにバージョンアップしていくのかが重要になりますので、当社はそのロードマップをお客様にお示ししてきたわけです。また、昨今は特に物流現場で自動化・ロボット化の取組が進み、AGV導入の動きが目立っていますが、まずはハンディターミナルやRFIDなどの自動認識技術を活用したシステムの導入に取り組まれるべきだと考えています。先にこれら自動認識技術を使用したシステム化を推進し、自社現場の作業や管理業務をWEB化により「見える化」することで机上での議論では分からなかったリアルな課題が浮かび上がってくるからです。こうした取組のうえに自動化・ロボット化を進められれば、想定された通りの効果が得られると考えますが、それがなくいきなり自動化・ロボット化に踏み出すリスクは大きい(お客様の事業規模や投資金額にもよります)ですし、導入効果の測定もままならないでしょう。
そこでまずはファーストステップとして、ハンディターミナルを使用した作業・業務管理システムを構築され、作業・業務の効率化やペーパーレス化を図るなかで自動化・ロボット化のポイントを見定め、万全の状態で自動化・ロボット化に進まれることを当社ではお勧めしています。
最近はAndroid OS端末へのシフトが急速に進んでいるようですね。これを想定して開発された「Biz/Browser」の需要が高まっていることも頷けます。
また、自動化・ロボット化に至る前段階で、ハンディターミナルやRFIDなどの自動認識技術を活用したシステムの導入を勧められている事情もよく理解できました。
山本:ありがとうございます。そのうえでですが、「Biz/Browser」はどのハンディターミナルでもOSでも問題なく動作しますので、お使いになっているハードウェアに左右されることはありません。ただ、こうした「Biz/Browser」の特性をお客様に直接ご理解いただくということは非常にハードルの高いことだと思っています。それゆえ、当社は前面に立たず、アプリケーションプロバイダ様と連携し、そのパッケージの開発プラットフォームとして「Biz/Browser」を組み込んでいただくことで普及を進め、シェアを拡大しています。
もっとも、その一方、自社のノウハウを蓄積したいという考えから、アプリケーション開発を内製化したいというお客様も増えています。そうしたお客様にとっての「Biz/Browser」は非常に使い勝手に優れたローコード開発ツールであり、WindowsOS端末用に開発したアプリケーションがAndroid OSでも全く同じように問題なく使用できますので、安心して導入することができます。
また、当社では、「Biz/Browser」がアプリケーション開発プラットフォームとしてロングスパンで使用できる、ということも開発時に重視しました。一度導入したものの、OSバージョンアップのたびに改修を繰り返すようなことは、特にアプリケーションを内製化されたお客様にとって大きな負担となるからです。当社がロードマップを提示させていただいているのもこのためで、そのタイミングに応じた次世代後継互換製品を用意することで、そうした負担を最小限に抑えられるようにしています。こうした製品開発やサポート体制を高く評価していただき、ハンディターミナル向け「Biz/Browser」を導入されたお客様は約2,550社に達しています。
凄い実績ですね。お客様を第一に考えられている貴社への信頼の厚さも推察されます。貴社のお立場から当社のハンディターミナルに対するご感想をお伺いできますでしょうか。
山本:カシオ計算機さんとは2006年からのお付き合いになります。カシオ計算機さんのハンディターミナルは、製品分野は違いますが時計の「G-SHOCK」に代表される頑丈なイメージがあります。最近では、国産ハンディターミナルメーカーに先駆けて片手での操作がしやすいグリップタイプのAndroid OS製品を開発され、こうした日本人の手に合った持ちやすい製品を、フラッグシップである「IT-G600」や「IT-G650」、「DT-X450」などの機種にも展開されている姿勢が素晴らしいと感じています。「IT-G600/IT-G650」に象徴されるように、外部の機器やソフトウェアとの連携を意識し、チップを埋め込んだ製品も用意されており、こうした製品開発がアプリケーション開発を進めるパートナー各社に対するメッセージとなり、カシオ計算機さんを中心としたスマートデバイスビジネスソリューションのアライアンスである「withCパートナーソリューション」のような取組につながっていったのではないかと考えています。
当社のそのメンバーの一員として、カシオ計算機さんとシステム連携用のソフトウェア開発やアプリケーションの制御、自動化などの機能開発などで連携し、成果をあげています。また、物流に限らず、様々な分野で使用できる製品をラインアップされていることがカシオ計算機さんの特長であり、市場で確固とした存在感を放たれているゆえんであると思っています。
過分なお褒めのお言葉をいただき、大変ありがとうございました。最後に貴社の今後のご計画についてお聞かせください。
山本:国内的にはシェア拡大を進めます。既存のバッチ用途でのリプレイス需要はすぐに出てこないと思いますが、Android OS切り替えに伴うリプレイス需要においては40%にまで伸ばしたいと考えています。一方、今後は海外市場での展開を加速し、戦いの場をグローバルに広げていく方針です。海外でも国内のお客様の海外進出に伴ってすでに実績を積んできていますが、今後は海外法人からの受注獲得に取り組んで参ります。当社の製品開発に対する考え方やロードマップなどの展開は、海外でも受け入れられるものと自信をもっていますので、成長する海外市場でも成果をあげられるものと確信しています。