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物流業界の事業通に聞く業界最新トピックス

<物流DX最新動向>
「物流革新に向けた政策パッケージ」と物流DXの現在地

text by月刊「LOGI-EVO」編集長 片岡信吾

月刊「LOGI-EVO」は、2021年8月に創刊されたあらゆる産業に関わるロジスティクスの総合専門誌です。

物流2024年問題がテレビや一般紙でも取り上げられるようになり、この問題に対する社会全体の危機感が高まっている。商品が製造・販売されても商品を店頭、あるいは消費者に直接届けることができなければ経済活動は立ち行かない。当然と言えば当然だが、この「届ける」あるいは「運ぶ」ことができなくなる事態がもう目前に迫っているとなれば、いやがうえにも関心を持たざるを得ないというのが実情だろう。

物流DX

この危機を打開するための国家的取組が「フィジカルインターネット」の実現であり、その推進のガイドとなるロードマップも示された。だが、フィジカルインターネット実現への道のりはまだ先であり、政府も物流2024年問題への緊急施策を打ち出している。そこで本稿では、フィジカルインターネット実現へのロードマップの推進状況と課題を踏まえつつ、緊急施策とその要となるDXの内容、課題などについて報告する。

1.フィジカルインターネットの進捗と課題

(1)フィジカルインターネットと「フィジカルインターネット実現会議」

フィジカルインターネットは、インターネットという情報基盤のシェア(共有)・コネクト(連携)による無駄のない効率的なデータ送信の仕組みを、モノ(フィジカル)の流通、すなわち物流に適用しようという考え方。貨物の配送・積替回数を最小限化するとともにサプライチェーン上のあらゆる工程にかかる時間や労力を効率化することで生産性向上を図るものだ。2021年10月6日には、フィジカルインターネットを我が国社会に実現するため、経済産業省と国土交通省の主導による「フィジカルインターネット実現会議」がスタート。同会議には物流に関連する学識者・研究者・コンサルタントなどが委員として参加し、2022年3月4日の第6回まで開催された。最終的にフィジカルインターネット実現への道筋と工程を示すロードマップを策定し、これを2022年3月8日に公表している。

(2)工程を補完する「物流革新に向けた政策パッケージ」

政府は物流2024年問題への切り札としてフィジカルインターネットというカードを切ったが、フィジカルインターネット実現会議が策定したロードマップでは、現在~2025年は準備期であり、2024年には間に合わない。また、完成期となる2036年~2040年までにはまだ相当の期間が必要。そこでそれまでの補完となるほか、中長期的に継続して取り組むための枠組みとして政府が考えたのが「物流革新に向けた政策パッケージ」だ。

その内容は2023年6月に行われた関係閣僚会議でその案件が提示されており、2024年1月下旬に召集される通常国会で法制化も含めた規制的措置を具体化し、2024年4月に間に合わせるとしている。同パッケージでは、(1)商慣行の見直し、(2)物流の効率化、(3)荷主・消費者の行動変容、といった3つの大枠で構成。特に(2)の物流の効率化については、
①即効性のある設備投資の促進
②「物流GX」の推進
③「物流DX」の推進
④「物流標準化」の推進
⑤道路・港湾等の物流拠点(中継輸送含む)に係る機能強化・土地利用最適化や物流ネットワークの形成支援
⑥高速道路のトラック速度規制(80㎞/h)の引き上げ
⑦労働生産性向上に向けた利用しやすい高速道路料金の実現
⑧特殊車両通行制度に関する見直し・利便性向上
⑨ダブル連結トラックの導入促進
⑩貨物集配中の車両に係る駐車規制の見直し
⑪地域物流等における共同輸配送の促進
⑫軽トラック事業の適正運営や輸送の安全確保に向けた荷主・元請事業者等を通じた取組強化
⑬女性や若者等の多様な人材の活用・育成
といった13項目が挙げられており、同パッケージの中核をなしていることは明らかだ。

2.政策パッケージにおける「『物流DX』の推進」の中身と課題

「物流革新に向けた政策パッケージ」の中の「物流の効率化」の取組の一つである「物流DX」では、自動運転、ドローン物流、自動配送ロボットや自動倉庫等の活用による物流の生産性向上をもって、物流2024年問題に対応するとしている。

物流DX:ドローン

自動運転とドローン物流については、自動運転トラックや自動運航船、ドローン物流等の実用化がカギとなる。すでにこれら自動運転についてはデジタル技術を活用したサービスの実証実験が繰り返され、実装段階に移行している。今後は高速道路等の規制緩和などを通じてその導入を後押しする。ただ、現状、個別事業者によっては自動運転車両やドローン等を保有することが難しいため、当該車両・ドローン等の導入促進のためのスキームも具体化するとしている。自動配送ロボットの活用については、低速小型の自動配送ロボットの公道走行による配送サービス拡大のため、多数台の自動配送ロボットを同時操作する技術や、インフラとの協調による走行環境の拡大、安全性・安定性の確保などに関する技術開発を支援する。

トラック輸送・荷役作業等の効率化については、荷主企業等と連携し、待ち時間を削減するため、倉庫や貨物鉄道駅、空港上屋等におけるバース予約システム等の導入を推進。自動倉庫や無人荷役機器等、荷役作業の効率化に資する機器等の導入を推進する。トラック事業においても車両動態管理システムや配車管理システム、求貨求車システム、トラックドライバー向け予約システム等の輸送効率化システムの導入や、原価計算システム等のトラック事業者の価格交渉力強化のためのシステム導入を推進する。

その他にも具体的な取組が挙げられているが、いずれにしてもこれら取組が現実に進めば、「物流の効率化」が劇的に進むことは間違いない。ただ、現実はそう簡単ではないだろう。例えば、自動運転は技術的にかなり向上しているが、最大の課題である安全性をどこの点で認めるのかが問題で、事故が発生した際の責任の所在、被害者への補償といった点を明確にする課題がある。そのための専用道路を設定するにしてもインフラ整備に莫大な資金と時間がかかる。

豊富で優秀な労働力を背景として経済全体に活力があり、安定した経済成長が見込めた時期であれば問題ないが、すでに長期にわたって経済成長がなく、インフラ整備のための原材料コストの高騰、建設業人材の不足などのネガティブ材料もあり、これら影響も見込んでおかなければならないのが実情だ。ドローン物流についても都市での運用についてはその落下危険性に対する課題が残る。もちろん、これら課題の克服に向けた様々な検討・折衝が現在も進められており、時間をかければ解消される可能性は高いが、2024年問題に対する即効性には欠けると言わざるを得ない。

一方、バース予約システムや車両動態管理システム等の物流拠点における物流ITソリューションの導入と、自動倉庫や無人荷役機器等の物流拠点における導入は、各事業者レベルの取組ではあるものの、近年急速に進展している現実があり、物流全体への波及効果も期待できる。また、これら取組は、自社事業の安定・継続や業績アップ・改善といった直接的なメリットにもつながることから、各事業者もその取組に意欲的だ。内容によってはサプライチェーンにおける調整が必要な部分もあるが、自社の意思決定で自由に進められることもあり、各事業者の取組の進展が期待されるところだ。

3.物流ITソリューション導入と情報端末機器の見直し

近年、物流拠点における物流ITソリューションや自動化設備・機器の導入は現実的に加速している。為替の問題や原材料コストの高騰もあり、ここにきて自動化設備・機器導入の勢いが鈍ってはいるものの、物流ITソリューション導入についてはむしろ需要がさらに高まる気配だ。物流2024年問題ではトラックドライバー不足がクローズアップされているが、物流拠点における庫内作業者の不足も危機的状況を迎えつつある。自動化設備・機器の導入はこの課題に対する直接的なソリューションとなるが、これら自動化設備・機器の運用には、WMS(倉庫管理システム)やWES(倉庫運用管理システム)、WCS(倉庫制御システム)といったシステムが欠かせない。その意味では、物流ITソリューションがDXの基盤になるとも言え、自動化設備・機器の導入と併せて優先的に検討されるべきに違いない。

一方、物流のラストマイルを担う宅配業においてもドライバーが新型ハンディターミナルを携帯し、基幹システムと連携したDXをさらに進化させる形で顧客サービス向上と業務の生産性向上に取り組んでいる。ドライバーが扱うハンディターミナルのような情報端末機器は1日の業務の中で繰り返し使用するだけに、その使い勝手はことのほか重要な選択基準になるという。ハンディターミナルについてはAndroid™ OS製品への切り替えが進むなか、新製品開発も進展しており、DXへの取組の過程で既存機器を見直す動きが広がっている。

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