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物流業界の事業通に聞く業界最新トピックス

<物流DX最新動向>物流DX推進事例

text by月刊「LOGI-EVO」編集長 片岡信吾

月刊「LOGI-EVO」は、2021年8月に創刊されたあらゆる産業に関わるロジスティクスの総合専門誌です。

物流2024年問題を契機にサプライチェーン全体の生産・効率性向上や、各事業者における物流体制の見直しが進展している。物流2024年問題は、働き方改革関連法の施行による時間外労働の上限規制が2024年4月からトラックドライバーにも適用されることで、トラックドライバー不足に陥り、これまでのように物を運び、届けることができなくなる懸念のことだが、物流拠点ワーカーの不足の顕在化も受け、物流拠点における自動化設備・機器とともに物流ITソリューションの導入が進展し、まさに物流DXが加速している状況だ。

そこで本稿では、製造業や流通業のほか、EC事業などにおける物流DX(物流ITやロボット・自動化設備の導入など)の取組の中から注目される事例をピックアップし、報告する。

物流DX最新動向

1.イオンリテール(株)

独自の需要予測・発注システムを開発/発注時間5割減で精度も40%改善

イオンリテール(株)は、独自開発した需要予測・発注システム「AIオーダー」を「イオン」や「イオンスタイル」など約380店舗で導入した。

「AIオーダー」は、客数と商品の需要予測をもとに最適な発注数を提示するシステム。正確な発注数を自動で提示し、発注時間を平均で5割削減することができる。AIによる客数予測や過去の販売実績とあわせて、曜日・価格・気温・プロモーションなどを機械学習させることで、既存システムと比べ精度の最大40%改善も実現する。

同システムは気温の変化等による突発的な品切れを減らす効果があるほか、過剰発注を防ぐことで平均3割の在庫削減にもつながる。発注数が適量になることで入荷整理や品出しをはじめ、在庫管理、値引き、発注修正などあらゆる業務負荷が減り、飛躍的な生産性向上も見込める。単純作業から、接客や売場整理といったサービス向上の業務へと人的リソースをシフトすることで、消費者の買い物体験の質を引き上げることもできる。

同社は店舗データのデジタル化や需要予測を行い、発注の最適化を進めることで、今後、物流課題の解決や商品開発などのサプライチェーンのDXをさらに推進する意向だ。

2.イケア・ジャパン(株)

「IKEA Tokyo-Bay」倉庫を自動化/従来の8倍の作業効率向上を実現

イケア・ジャパン(株)は、千葉県船橋市にある「IKEA Tokyo-Bay」の倉庫をオートメーション化した。

同社は、9つのイケアストア(大型店舗)、3つの都心型店舗、カスタマーサポートセンターの展開に加え、ECサイト(IKEAオンラインストア)の開業およびIKEAアプリの配信、商品受取りセンターの拡大、IKEAポップアップストアの開設などで顧客とのタッチポイント増加に努めている。また、ECサイト上のオーダー増加を中心に変化の激しい顧客購買行動ニーズに対応するため、各タッチポイントを繋ぎ、総合的にアプローチするオムニチャネル化を加速する施策に注力。この施策推進にあたり、ロジスティクスの整備が重要であるとし、以前からロジスティクス業務の効率化に取り組んできている。

こうしたなか、同社は関東全体をひとつのマーケットとして捉え、店舗間でのシームレスな連携およびカスタマーフルフィルメント能力の最大化を目指した取組を推進。従来関東圏の4つのイケアストア(大型店舗のIKEA新三郷、IKEA Tokyo-Bay、IKEA立川、IKEA港北)で担っていた小物配送のピックアップ業務をIKEA Tokyo-Bayに集約し、商品発送効率を高める方針を決定した。ピックアップ業務の集約化に対応するため、IKEA Tokyo-Bay倉庫内に自動倉庫型ピッキングシステム「AutoStore」を導入。関東圏の小物配送商品のピッキングをAutoStoreにより自動化したことで、庫内作業者が倉庫内を歩き回る従来の方法に比べ、約8倍の作業効率向上を見込んでいる。

3.オルビス(株)

流通センターで最新のAMRを導入/ピッキングの省人化・生産性向上へ

ポーラ・オルビスグループのオルビス(株)は、ロジスティクスの主要拠点である「オルビス東日本流通センター」の直営店舗・BtoB向け出荷ラインの刷新に伴い、重量計を搭載した最新のAMR(自律走行搬送ロボット)を導入し、稼働させている。AMR導入により倉庫オペレーションの省人化と効率化を達成することで、倉庫内出荷作業の生産性向上を推進。同社は、2020年に実施した通販出荷ライン「T Carry System」における小型AGV導入や、今回のAMRの本格導入・実用化にとどまらず、今後も最新テクノロジーの積極活用によって物流システムの自動化、省人化を促進する。物流現場の負担や環境負荷を軽減するとともに、各チャネルの物流基盤をサステナブルな形で強化し、生産性及び顧客利便性のさらなる向上と、社会課題の解決に取り組む考えだ。

同社は、サステナブルであることを前提とした自動化を達成するため、ヒトとAMRが効率よく連携して最適なピッキングができるよう、オリジナルの重量計付きAMRを採用し、独自の仕組みを構築した。同社の直営店舗・BtoB卸し先向け出荷作業は、日々約500品目のなかから、1オーダーあたり平均して約20品目・約100ピース(サンプル含む)を出荷するという特性がある。従来は、4拠点分のオーダーが割り当てられた重量計付きカートを、人が1台ずつ手で押して移動しながら当該商品が保管されている棚に移動してピッキングを行っていた。今回新たに導入した独自開発のAMRは1台につき4拠点分の出荷データを受信すると、自動的に最適なルートで棚間をヒトやモノに接触・衝突することなく安全に巡行し、オーダーがかかった複数の商品棚に向かって順番に移動。全てのオーダー商品が揃った後、発送ステーションまで商品の入ったケースを運ぶところまで自動的に行う。AMRには重量計が組み込まれており、ピッキングと同時に重量検品を実施。別工程で検品することなく、高い精度のピッキングを実現している。

全体的なシステム設計にあたっては、通販出荷ライン「T Carry System」の基本コンセプトである、「4つの“ない”」(作業者を「歩かせない」「待たせない」「持たせない」「考えさせない」)を踏襲。自律走行するAMRと、ピック棚にやってきたAMRの搭載ケースに商品を入れる作業者の動きを効率よく連携させるため、商品保管棚スペースをゾーン化し、ゾーンごとにピッキングの作業者を配置する仕組みとした。さらに作業者の腕には次にピックすべき商品と棚の位置情報が表示されるウエアラブル端末を装着。これら工夫により、旧出荷システムに比べ、同じ出荷能力に対して人員を25%削減、売上高に対する出荷作業費比率も約10%削減できる見込みだ。また、作業者がカートを押して長い距離を歩く必要が無くなるため、作業負荷低減も期待できる。

4.サントリーホールディングス(株)

製品の物流管理システムを刷新/車両位置情報を自動収集・把握

サントリーホールディングス(株)は2023年6月19日以降、順次、製品の物流管理システム刷新を進めており、首都圏での導入を皮切りに、年内にも全国で稼働開始する予定だ。

人手不足やさらなる物量の増加など、物流を取り巻く環境の変化への対応が近年一層重要になっている。酒類・飲料を製造・販売するサントリーグループでは、年末年始やゴールデンウィーク、夏季などに配送量が大幅に増加し、トラックの現在地などの配送状況を確認する頻度も高まるため、その対応は物流企業・ドライバー、両者それぞれの負担となっていた。そこで今回は同社物流管理システムに、各物流企業が持つ車両の位置情報を自動でタイムリーに収集・把握する機能を新たに搭載。これにより、同社は各トラックの配送状況を即時に把握できるため、物流企業・ドライバーへの確認の問い合わせは不要。物流企業の従業員・ドライバーの問い合わせ対応の時間を、年間で計約6万時間削減できる見込みだ。

サントリーグループはこれまでも持続可能な物流の実現を目指し、労働負荷低減、環境負荷低減などに取り組んできた。今後も、物流企業やドライバーにとってより働きやすい環境を整備していく意向だ。

5.(株)LIXIL

AIを活用した需要予測を導入/サプライチェーン全体の最適化へ

(株)LIXILは、AI・機械学習アルゴリズムを用いた次世代型需要予測ソリューション「Multidimensional Demand Forecasting(MDF、PwCコンサルティング(同)提供)」を導入した。サプライチェーン全体の最適化に向けた取り組みの一つとして、サッシ・ドアやエクステリアなどの建材事業を展開するLIXIL Housing Technologyの約120万機種におよぶ製品を対象に、AI需要予測の試験運用を開始している。

LIXILは、急激な事業環境の変化に柔軟かつ機動的に対応するため、DXを加速している。デジタル化で、より顧客志向の強い組織へと転換するとともに、生産体制とサプライチェーンの最適化に取り組んでいる。同社はこれまでも、消費者の様々なニーズに対応するため、多品種の生産基盤を構築し、事業生産性向上やブランド競争力向上に取り組んできたという。資材調達リスクやコンテナ不足など、サプライチェーンの問題が発生し、事業環境が大きく変化するなか、多岐に渡る製品の需要を担当者レベルで予測することは難しい。同社はこのため、今後発生する問題を予見し、迅速に対応できる体制を構築する必要があると認識。調達から製造、販売までの各プロセスにおける状況を把握し、在庫管理や業務運営の効率化などサプライチェーン全体の最適化に向けた取り組みの一つとして、今回、AI需要予測ソリューションを導入し、プロジェクトを始動したものだ。

2022年9月より、ハウジングテクノロジー事業の約半数を占める既存品の予測値を先行展開。2023年1月からは、これまで予測できなかったモデルチェンジ品についても対応し、LIXIL Housing Technologyのほぼ全ての製品をカバーする予測値の算出が可能になったという。

ハウジングテクノロジー事業は、取扱製品が約120万機種に達し、販売エリア別に展開したSKUが230万を超えるほど規模が大きく、細かい粒度で需要の動きや特徴を捉えることは困難。このため、様々なサプライチェーンリスク(欠品・リードタイム延長・過剰在庫・廃棄コスト・横持ち輸送コスト等)を低減することがハウジングテクノロジー事業の喫緊の課題になっていたという。今回導入したMDFはAI・機械学習アルゴリズムを採用しており、230万の予測対象一つ一つの特徴を捉えた高解像度かつ高精度な予測算出が可能になった。

膨大な予測データを提供する環境構築には、同社の様々なデータを一元管理するクラウド型のデータ統合基盤「LIXIL Data Platform」を採用し、各工場でデータ活用の自走化を促すためのデジタルスキル支援も並行して進め、多くの工場で潜在リスク低減に向けた実用化レベルの取組が加速しているという。今後は、製品だけでなく副資材等も含め、需要予測の対象領域をさらに拡大していく予定。今後もDXを推進し、サプライチェーン全体の最適化を図るとしている。

6.まとめ

物流DXは、物流2024年問題に対応し、物流に携わる企業が生産性向上や競争力強化などいった課題を達成するため、もとより必要な取組であるに違いない。ここで紹介した事例は、いずれも物流2024年問題に対応するだけでなく、自社の事業拡大・成長に直結するものとなっている。逆に言えば、各企業がサプライチェーン全体を視野に入れた物流の生産性向上・効率化に取り組むことが物流2024年問題の解決につながるとも言える。その根幹が物流DXへの取組であることは言うまでもないだろう。物流ITソリューションや各種プラットフォーム、ロボットを含めたMHなどの各種自動化機器・設備、ハンディターミナルなどの情報端末機器の新製品開発がここにきて活発化しているのも不思議ではない。メーカー・サプライヤーがここを商機ととらえているからだ。実際、ここに挙げた事例以外にも多くの物流DXへの取組が進展している。

物流危機を乗り越えるための取組を地球の動きに例えれば、政府の施策は公転であり、各企業の取組は自転であると言える。この双方の動きが相まってこそ軌道は正常化する。内容の是非はともあれ、政府は様々な施策を打ち出しているだけに、これを実体化する各企業の物流DXへの取組が今後さらに進むことを期待している。

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