<物流DX最新動向>物流DX推進事例
(2023年下半期以降)
text by月刊「LOGI-EVO」編集長 片岡信吾
月刊「LOGI-EVO」は、2021年8月に創刊されたあらゆる産業に関わるロジスティクスの総合専門誌です。
物流2024年問題のタイムリミットがいよいよ目前に迫り、サプライチェーン全体の生産・効率性向上や、省力・省人化を志向した物流体制の見直しに迫られている。物流2024年問題は、働き方改革関連法の施行による時間外労働の上限規制が2024年4月からトラックドライバーにも適用され、トラックドライバー不足で物流が機能しなくなることを懸念したもの。ただ現実に不足しているのはドライバーだけではない。工場や物流拠点内でオペレーションを担うワーカーの確保も年々厳しさを増すばかりで、サプライチェーン全体で「現場」の人手不足が明らかになっている。最近では特にサプライチェーン全体の最適化を踏まえた自動化設備・機器やITソリューションへの投資が目立ち始めている。
そこで本稿では、製造業や流通業のほか、EC事業などにおける物流DX(物流ITやロボット・自動化設備の導入など)の取組(2023年下半期以降)の中から注目される事例をピックアップし、報告する。
1.イオンネクスト(株) 〔2023年7月公表〕
日本初の顧客フルフィルメントセンター「栄誉田CFC」が稼働/最先端のAIおよびロボティクス機能導入により最適で効率的な物流を実現
イオンネクスト(株)は、オンラインマーケット事業「Green Beans(グリーンビーンズ)」のグランドオープンに対応するため、最先端のAI及びロボティクス機能を導入した日本初の顧客フルフィルメントセンター(CFC)「誉田CFC」(千葉市緑区)を稼働させた。
同施設では、徹底した温度管理コールドチェーンを採用し、生鮮品の高度の品質管理を実現。24時間稼働のピッキングロボット(最大約1,000台)で最大5万品目もの膨大な商品群(稼働時点は3万品目)を取り扱い、約6分で50商品のピッキングが行える体制を整えた。ピッキングもシステム化されており、商品の損傷防止のため、重量物や硬い物を先に、また常温・冷蔵・冷凍の順番でピックアップするようプログラムされている。
配送ルートは、顧客から注文が入った段階で計算を開始する仕組み。同じ地域の他の顧客の注文状況を考慮し、AIで最適かつ効率的な配送ルートを導き出すため、顧客から希望の多い配送時間帯でも最大限多くの配送枠を顧客に提供できる。
2.アスクル(株)〔2023年11月公表〕
物流センター・補充倉庫間の商品横持ち計画にAI需要予測モデルを活用/予測精度向上と作業工数削減達成を踏まえ、同社全国物流拠点に展開
アスクル(株)は、物流センターと補充倉庫間の拠点間で商品輸送を行う横持ち計画に AI を活用した需要予測モデルを導入し、同社全国物流拠点への展開を開始した。
AI 需要予測モデルは、同社物流センターとその近郊に位置する補充倉庫との間の商品横持ち指示に活用。AIは「いつ・どこからどこへ・何を・いくつ運ぶべきか」を指示する。従来は、物流センターや補充倉庫の担当者が豊富な経験や知見をもとに、手作業で横持ち計画を策定していた。同モデルによる横持ち計画策定は、需要予測精度向上とともに、作業工数の削減につながる。同モデルを導入した「ALP 横浜センター」では、商品横持ち指示の作成工数が従来比で約 75%減/日、入出荷作業が同約 30%減/日、フォークリフト作業が同約 15%減/日などの効果が得られたことから、同社全国物流拠点への展開を決めた。
AI 需要予測モデル導入により、属人的で担当者の経験と知見で成立していた商品横持ち計画策定が AIによるデータドリブンなプロセスに置き換わり、需要予測精度向上とともに、作業効率向上を実現した。また、需要予測精度向上とシステム化により、これまでは管理が難しく、センター内で保管していた「期限管理品」(賞味期限や使用期限があるもの)の補充倉庫での保管が可能となり、センター内での商品の移動が削減された。
3.NEC、アサヒ飲料(株)〔2023年12月公表〕
収益拡大に向けた戦略立案高度化の実証実験を実施/独自AIを活用した新商品需要予測マネジメントで
NECは、アサヒ飲料(株)と共同で、独自AI技術を活用した予測精度マネジメントによる収益拡大に向けた戦略立案の高度化の実証実験を実施した。
実施期間は、2023年6月から10月までの5か月間。NECは、この実証実験を通じて以下3点の成果を確認することができたとしている。
①需要予測専門家であるデマンドプランナーの知見や暗黙知で行っていた新商品の需要予測の類似性判断で7割程度を再現
②判断材料やノウハウなど、属人的でデータ化できていない要素の可視化
③売上機会損失、棚卸資産、在庫保管費、物流費削減など机上評価で年間3億円の削減見込み
NECは、同実証実験の成果を踏まえ、2023年12月からアサヒ飲料との連携を強化している。これまで人手が担っていた業務をAIで効率化することで、さらなる需要創出と、収益拡大に向けた高付加価値業務に注力できるプロセス構築が目的。商品の欠品や余剰在庫を防ぎ、消費者に商品を安定提供できる体制を整える。
食品ロスは近年、世界で年間約13億t、国内では同約612万tに達するという。食品ロス発生の原因の一つが需給のミスマッチで、食品・飲料メーカーは、生産・在庫の最適化と業務効率化により、過剰な生産や期限切れによる返品、売れ残りといった様々な課題解決が期待できる。
現在、食品・飲料メーカーにおける商品の需要予測の多くは、デマンドプランナーの属人的な知見やノウハウに基づいて行われている。しかし、既存品に比べると新商品の需要予測は誤差率が高く、欠品や過剰在庫の発生可能性が高くなる。また、需要予測結果に対する根拠の透明性、再現性の低さ、さらには発売前にトレンドの変化や季節性を考慮した中長期的な需要予測を行うことの難度の高さが課題だった。
同実証実験では、NECの独自AI技術と需要予測のプロフェッショナル知見を組み合わせ、アサヒ飲料の新商品発売前の時点において、需要予測のカギとなる「類似性判断(ベンチマーク商品の選定)」「類似品との差異分析による需要予測」、さらに「需要予測オペレーション管理のためのしくみ構想」を実施したとしている。
4.オイシックス・ラ・大地(株)〔2024年1月公表〕
AIを活用した需要予測システムをローンチ/調達における予測誤差率20.2%の改善を実現
オイシックス・ラ・大地(株)は、データ活用のための同社内専門組織「Data Management Office(DMO)」で開発を進めていた同社初のAI活用「需要予測システム」(AI需要予測システム)をローンチした。同社は、2022年から「ビジネスモデルとテクノロジーの力で地球にも人にもよい食を提供する」とのテーマを掲げ、テクノロジーとデータを活用したサステナブルリテール(持続可能な小売業)を実現する成長戦略を打ち出しており、その戦略の一環で発足したのがDMO。このDMOを通じてのAI需要予測システムのローンチにより、食品宅配サービス「Oisix」における過剰発注の減少とこれに伴う食品ロスの削減に加え、欠品減少による顧客満足度向上の実現を目指すとしている。
今回ローンチしたAI需要予測システムは、「Oisix」の主力商品である「Kit Oisix」の需要予測に使用する。従来は、担当者が一定のデータと経験値をもとに需要を予測していたが、その材料の全てを考慮に含めるには限界があったという。また、需要予測に相当の時間を要するため、本来必要な「売るための仕掛けを考える時間」が削られるという課題もあり、その解消のため、需要予測システムへのAI導入を決めた。2023年11月のローンチ後、ユーザーの行動や購買データのほか、レシピデータや販促データなどを学習させることで順調に予測誤差率(旧ロジックと新ロジックにおける相対改善率)が大幅に改善。ローンチからわずか1か月で20.2%もの改善にこぎ着けた。
AI需要予測システム導入で最適値での発注が可能になるため、欠品率と在庫回転率の改善が見込める。欠品率の改善については、買いたい商品が常に購入できるという顧客体験の向上につながるほか、販売機会ロスがなく売上向上にも寄与する。在庫回転率の改善については、売り切るための販促費や、物流コストの削減も可能になるほか、フードロスのさらなる削減にも寄与するものと同社ではみている。
5. (株)日立製作所、サントリー食品(株) 〔2024年1月公表〕
工場への原材料入荷から製造、物流、倉庫保管までの情報一元管理を実現/チェーントレーサビリティを清涼飲料製造工場約60拠点、倉庫約300拠点で一斉運用
(株)日立製作所は、サントリー食品インターナショナル(株)、およびサントリー食品グループのサントリーシステムテクノロジー(株)との協創を通じ、工場への原材料入荷から製造、物流、倉庫保管までの情報一元管理を実現する「チェーントレーサビリティシステム」を開発した。同システムは、複数拠点にまたがる情報を1本のチェーンとして一元管理・追跡することを可能にしたもの。サントリー食品の清涼飲料製造の国内委託先を含めた工場約60拠点、および倉庫約300拠点の全てで一斉に運用を開始したとしている。
従来、これら情報は個別システムなどで管理されており、サプライチェーンのなかで異常発生の可能性が生じた場合、サプライヤーや工場、倉庫への個別問い合わせにより、その影響範囲の調査・確認を行っていたため、膨大な時間と労力を要した。同システムは、顧客データの活用によりデジタルイノベーションを加速するため、日立製作所が提供する先進デジタル技術ソリューション「Lumada」を活用。サプライチェーン上のデータを収集し、仮想空間に現実世界を再現し、シミュレーションできるものとした。これにより、異常発生による影響範囲を即座に把握できることから、商品サプライチェーンの安全性・安心の確保に加え、影響範囲の調査・確認業務の大幅な効率向上が見込める。
日立製作所は将来、同システムの対象を、サントリー食品製品の原材料サプライヤーや、卸売事業者、小売店まで拡大するとともに、他の飲料メーカーなどにも展開することで業界全体での一貫したチェーントレーサビリティの実現を目指すとしている。
6.まとめ
今回取り上げた物流DX事例5つのうちの4つがAI関連というところに時代を感じる方も多いだろう。物流DXにおいても、AIがもはや必須アイテムに近い存在になっていることは間違いないだろう。物流2024年問題は、広げて言えば、サプライチェーン全体に内在化されていた課題の顕在化であり、この複雑な課題解決においてAIという最先端技術を使わない手はない。ただ、いかにも時間がないというのも現実。政府が示した「物流革新に向けた政策パッケージ」や「物流革新緊急パッケージ」についても、年頭に発生した能登半島地震の復旧対策と併走しながら施策推進せざるを得ず、状況は極めて厳しい。それでも、今回紹介した5つの事例のような取組が進めば、事態は着実に改善する。
特にAIについては、ここに挙げた事例のとおり、需要予測がその力を最も発揮する役割の一つであると期待されている。需要予測の精度が高まれば、サプライチェーン全体の効率性が劇的に向上することは間違いなく、あらゆる「現場」の人手不足も緩和されるに違いない。ともあれ、我が国の産業を守るためにも、物流に関連する業務の多くでDX推進がより加速することを期待したい。