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物流DX「人と現場の最前線」キーパーソンインタビュー(株)ハイウェイテックジャパン

顧客志向のソリューション提案で物流DXを加速
新開発「Smart@Hyway」に音声ソリューション基盤を実装

text by月刊「LOGI-EVO」編集長 片岡信吾

月刊「LOGI-EVO」は、2021年8月に創刊されたあらゆる産業に関わるロジスティクスの総合専門誌です。

(株)ハイウェイテックジャパン 代表取締役社長 鄭 澤勇 氏

(株)ハイウェイテックジャパン
代表取締役社長

鄭 澤勇 氏

物流2024年問題の渦中となる2024年4月に突入し、物流業界のみならず我が国産業界が正念場に立たされている。新型コロナ禍でサプライチェーン破綻の危機を経験した消費者もこの問題が抱える深刻さを容易に認識できる状況になっているに違いない。近年は産官学が一体となってこの問題を克服するための施策を打ち出し、事業者も自動化やDXへの取組を推進することで物流の維持・継続を死守しようと懸命の姿勢を見せている。自動化・DXへの取組の中核となるのが輸送・倉庫内オペレーションにおけるデジタルデータの収集・管理で、製・配・販の各物流現場ではハンディターミナルやバーコードリーダなどの情報端末機器を使用し、現物に紐づくデジタルデータを収集・管理する体制の構築が進展している。

一方、そのオペレーション実現に不可欠な専用アプリケーションの開発・運用ツールであるミドルウェアの重要性も再認識されてきている。そこで、今回は、製・配・販の各物流現場のDX実現で豊富な実績を持つミドルウェア開発ベンダー、(株)ハイウェイテックジャパンの代表取締役社長である鄭澤勇氏(写真)にインタビューし、同社の事業展開、製品開発、今後の計画などについて話を聞いた。

お忙しいところ、大変にありがとうございます。まずは貴社の概要から伺いたいと思います。

鄭:当社は、(株)シノジャパンのミドルウェア「@Hyway」を中心としたIT事業を引き継いだ100%子会社であり、シノジャパングループのさらなる事業拡大を期し、2017年に設立したものです。シノジャパンは1993年の設立以来、バーコードを活用した生産管理システムや倉庫・物流管理システムの開発に注力し、着実に実績を積み重ねてまいりました。

転機が訪れたのは、日本製品が中国で人気の的となり、中国人旅行者の大量の買い物行動が「爆買い」と表現された2013年ごろのことです。中国は私の母国でもありますし、日本での事業経験もありますので、日本と中国を結ぶ越境ビジネスに商機があるのではと考えました。そこで、2015年に商品の輸出入、販売および代理店ビジネスに参入し、2017年には中国(上海)で越境流通プラットフォーム事業を行う合弁会社(当社のほか、中国の大手国営企業である上港集団傘下の上港物流、ヤマトホールディングス社、プラネット社と四社出資による)を設立するとともに、IT事業を分離し、ハイウェイテックジャパンに引き継がせることで、両事業をスムーズに展開できるグループ体制を構築して、今日に至っています。

もっとも、IT事業で古くからお取引をいただいているお客様の一部については、引き続き商流の窓口をシノジャパンが担当することで、安心してお取引を続けていただいています。

ハイウェイテックジャパンにおけるIT事業もミドルウェアを中心に幅広く展開されているようですね。

鄭:現在は、製造、流通、物流の各分野でお取引をさせていただいています。ミドルウェア@Hywayが生まれたのは、製造分野での開発実績がきっかけだったのですが、ハンディターミナルを活用した業務管理システム導入の動きは、物流、製造、流通の順に多くなっていることから、導入実績も現在は物流の割合が最も多くなっています。こうした実績を踏まえ、今後物流分野でのシェア拡大をさらに進める一方、製造、流通の両分野についてもまだ営業開拓できる余地が大いにあると考え、積極的に営業活動に取り組んでまいります。

製品ラインナップの拡充も進んでいるようですが、新製品開発の状況はいかがでしょうか。

鄭:お客様の様々なニーズを踏まえ、次世代@Hywayと位置付けた「Smart@Hyway」をいよいよリリースいたします。Smart@Hywayは通信ミドルウェアを進化させた物流クロスプラットフォームで、OSやハードウェアに起因する機種間の差分を極限まで吸収しているため、従来バージョンに比べてアプリケーションの互換性が格段に向上しています。

そして何と言っても、近年業務用として急速に普及しているAndroidやiOS等のスマート端末が標準で備え付けている様々な内蔵デバイス(GPS、カメラ、音声エンジン等)やサポートしている外付けデバイス(プリンタ、RFiD等)をクラウド(Web)ソリューションより気軽に扱えるようにしただけでなく、バーコード・OCR・RFiD・音声入力など複数の入力メソッドを同時に使うシーンにおいても、一般のブラウザでは実現できないきめ細かいデバイス制御が可能になっている、といった特徴があります。

加えて、高度な画像圧縮技術を取り入れて、JPEG形式より10倍も高い圧縮率にて写真ファイルを圧縮することに成功しています。こちらは第2フェーズでの実装を予定していますが、想定している応用シーンとしては、画像検品です。物流現場では近年、検品工程で商品を撮影し、その画像データをクラウドに転送・保管するケースが増えていますが、画像ファイルのサイズが大きく、数も膨大で転送に時間がかかるという課題が指摘されています。Smart@Hywayの高速画像転送技術がそうした課題の解決に繋がればと思います。

また、ローコードツールであるアプリケーション統合開発環境「Atelier@Hyway」も同時リリースする予定です。これにより、開発期間の大幅な短縮、ひいては開発コストの大幅な削減が見込めるほか、開発にあたっての事前習熟もほぼ不要となりました。

当社では、Smart@HywayとAtelier@Hywayの組み合わせにより、従来のHTMLベースのアプリケーションに比べても全く遜色ない画面の見栄えが得られることから、これまでのようにBtoB向けばかりではなく、BtoC向けにも応用領域を拡大できるものと期待しており、物流分野のIT化、DXの進展に貢献できるものと考えています。

Smart@HywayとAtelier@Hywayの特徴は、まさに物流分野における情報端末機器を活用したアプリケーション開発の課題解決につながるものです。

鄭:ありがとうございます。当社は一方で、音声ソリューションの需要が今後高まるとみています。現在データ収集で活用されているバーコードやRFID、OCRなどの自動認識技術では、業務運用の効率化に限界があると感じており、音声ソリューションがその穴埋めになるとの判断から、Smart@Hywayに音声ソリューションの開発基盤を実装しました。

一般に音声機能とは、音声入力のほか、用意したテキストを読み上げる音声合成と、音声により画面を動かしたり、操作したりすることのできる音声指示の3機能で構成されるもので、これらの音声機能を活用したアプリケーションの開発は決して簡単なものではなく、お客様の要件をクリアするレベルに仕上げるまでの手間とコストは相当のものになります。

私の記憶するに音声入力技術については、1990年代後半に大手企業を筆頭にIT業界がこぞって取り組み始めましたが、リーマンショックを経て2010年代に入ると撤退が相次ぎ、物流分野でも音声入力技術を使ったソリューションの導入は限定的なものに止まっていると認識しています。その要因は、当時の音声エンジンの性能限界と採算性です。前者は音声認識技術そのものの問題であり、事前学習したオペレーターの音声でないと認識率が上がらないほか、現場での活用を考えたノイズ対策も施さなくてはなりません。それだけでもアプリケーションを組むSIerにとっては大変な工数と手間になりますが、さらに現場環境に合わせたチューニングも必要になります。それだけコストは上がるわけですが、自動認識技術を活用したシステムに比べて高く売れるということではありませんので、採算も自ずと合わなくなってしまいますね。

しかしあれから十数年経って、状況は大きく変わりました。現在は、市販のスマホでも業務用端末でも素晴らしい音声エンジンが搭載されていたり音声サービスが無料で利用できるようになっていたりして、しかも特別な騒音がなければ、道路上や現場であっても特定話者の分別なく高精度に音声を認識できるようになっています。

しかしながらこうした素晴らしい音声エンジンを以てしても、その為の開発基盤がなければ、やはりスクラッチ方式による開発に頼らざるを得ません。スクラッチ開発では、結局、面倒なチューニング作業が必要になってしまいます。

一方、Smart@Hywayにおいては音声ソリューションの開発基盤として前述の音声機能が標準実装されているため、(音声を活用した)アプリケーション開発におけるチューニング作業は不要になります。音声機能を使うためのインタフェースも@HywayのXMLタグセットに基づくもので、至ってシンプルなものです。もう一つ、Smart@Hywayでは音声機能は決して特別な存在というものではなく、あくまで、バーコード・OCR・RFiDといった従来の自動認識技術の延長線上にあるものとして扱われるようになっているため、従来の自動認識技術との併用でも、あるいは音声機能のみでもアプリケーションを自由自在に構築することができます。

なるほど、高性能の音声エンジンとSmart@Hywayの組み合わせにより、音声ソリューションを手軽に導入できる環境が整ったことが良く分かりました。

鄭:最もその効果を理解しやすいのは、音声合成機能だと思います。例えば、現場でピッキング作業をしている場合、商品バーコードをスキャニングした際に何らかのエラーが発生したとします。その際、エラーメッセージを一々画面で確認する代わりに、それを自動的に音声で読み上げさせるようにすれば、それだけでも作業効率は向上するでしょう。

貴社の新製品と新ソリューションの提供で物流分野の生産性向上が進みそうです。貴社の意欲的な開発姿勢には驚かされます。

鄭:ありがとうございます。新ソリューションと言えば、企画中のものを一つご紹介します。ご存じのように、ミドルウェアは表に出てこないため、その良さは一般的に認識されにくく、展示会等でプロモーションをかけても中々結果に結び付きません。という訳で、当社では拡販戦略の一環として、@Hywayを活用したソリューションを単独又はベンダー様と共同で企画・開発し、それをクラウドサービスとして直接お客様にご提供する試みを始めさせて頂いております。

先般、既に「Asset@Hyway」(物品管理サービス)をリリースしておりますが、現在はSmart@Hywayと「ラベルAI識別OCR」(IDEC AUTO-ID SOLUTIONS(株)製)を組み合わせた「入荷・照合自動化ソリューション」を企画しております。IT化やDXが進展しているといっても、現場では依然として入荷ラベルのように紙ベースで、しかも文字・数字の情報しか印刷されていない場合も少なくなく、入荷情報の照合も目視確認になり、検品ミス発生のリスクがつきまといます。同ソリューションでは、スマートフォンでラベルを撮影すれば、自動的にそれぞれのラベルから必要な情報を認識し、(クラウド上の)データベースに取り込みますので、検品作業を正確・短時間に処理することができますし、また取り込んだデータを様々な場面で有効活用することもできます。

「Asset@Hyway」や「入荷・照合自動化ソリューション」のような具体的なソリューション提案ができると、プロモーション活動もしやすくなりますね。

鄭:本当にその通りです。今後はSmart@Hywayそのものの拡販を加速すると共に、それを活用したソリューション提案にも力を注いでまいります。

一連のご提案をうかがい、我が国のIT化、DXが進展していないのも具体的な提案に乏しいからだという感想を持ちました。

鄭:あくまで一般論としての感想に過ぎませんが、IT化やDXということが抽象的に祭り上げられてしまっているように感じていました。IT業界が小難しい用語や概念の中に止まり、お客様の具体的な課題の解決に寄り添い切れなかったこともその一因だと思います。当社はまだまだではありますが、お客様の声を真摯に受け止め、多くの現場を拝見するなかでこうした具体的なソリューション提案を行うことができるようになりました。音声ソリューションもその一つですが、今後も現場の業務改善で手軽に導入できて、そしてその効果をすぐに実感して頂けるようなソリューションを考え、提案してまいります。

素晴らしいお考えだと思います。最後になりますが、貴社のお立場から当社ならびに当社のハンディターミナルに対するご感想をお伺いできますでしょうか。

鄭:カシオ計算機さんとは古くからのお付き合いで、@Hywayの初期段階からカシオ計算機さんのハンディターミナルへの対応もさせていただいております。ハンディターミナルメーカー各社に対しては等しくお付き合いしておりますが、そのなかでもカシオ計算機さんは使い勝手に優れた機種を積極的に開発されているメーカーであると認識しています。今後はこれまでにも増してさらにお付き合いを深め、連携し、コラボレーションできるような事例を作ることができればうれしいですね。

温かいお言葉が身に沁みます。ご期待に応えられるよう今後もさらに努めてまいります。本日はお忙しいなか、大変ありがとうございました。

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