

<製造業関連動向>「2022年版ものづくり白書」に見る製造業DXの課題と方向性
text by月刊「LOGI-EVO」編集長 片岡信吾
月刊「LOGI-EVO」は、2021年8月に創刊されたあらゆる産業に関わるロジスティクスの総合専門誌です。
我が国経済・産業の基幹が製造業であることに大方異論はないだろう。精細な感覚で機能美を追求する職人気質に裏付けられた製品の完成度や性能の高さ、高水準の教育課程を背景に多くの優秀な生産従事者に裏付けられた製品品質の均一性の実現が我が国「ものづくり」の国際競争力の源泉となり、世界からメイド・イン・ジャパンが賞賛される歴史を作り上げてきた。 近年その勢いは衰えてはいるものの、「ものづくり」のポテンシャルは依然として高く、生産性向上や業務効率化といった側面が強化されればメイド・イン・ジャパンが再び世界を席巻する日も来るに違いない。
ゆえにITの活用による既存業務・ビジネスモデルの転換、すなわちDXが重要であり、官民ともにそのための施策に積極的に取り組み始めている。そこで本稿では、我が国製造業の現状を調査・分析した「2022年版ものづくり白書」(令和3年度ものづくり基盤技術の振興施策〔経済産業省・厚生労働省・文部科学省〕)の内容を踏まえ、我が国製造業におけるDXの課題と方向性について展望する。
1.「2022年版ものづくり白書」の概要

(1)「ものづくり白書」とは
「ものづくり白書」は、平成11年に成立・施行された「ものづくり基盤技術振興基本法」に基づいて作成される法定白書。経済産業省、厚生労働省、文部科学省の3省により共同作成されており、2022年版では、統計や各種調査に基づいた我が国製造業の現況等の動向分析に加え、大きな事業変化として、カーボンニュートラルや人権尊重、DX等に関する動向・事例などがまとめられ、掲載されている。
(2)2022年版における製造業の業況について
2020年5月に鉱工業生産が底打ちし、回復基調だったが、2021年後半には世界的な半導体不足の影響を受けて再び悪化した。また、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、生産活動が停滞し、サプライチェーンの機動力低下も顕著になった結果、原料価格の高騰、半導体などの部素材不足などに拍車をかける状況となっている。ロシアによるウクライナ侵攻の勃発でこの状況がさらに深刻化していることは周知の通りだ。

日本銀行の「全国企業短期経済観測調査」の業況判断DIは、2020年第2四半期に大企業製造業のDIが11年ぶりの低水準となり、中小企業のDIは製造業・非製造業とも大企業以上に悪化した。同年第3四半期は、製造業・非製造業ともに改善し、2021年以降も改善傾向がみられたが、2022年第1四半期には、大企業製造業及び中小製造業は7四半期ぶりに悪化した。
一方、資本金1億円以上の事業者の営業利益の推移は、2020年には2017年(過去10年で最大)の約半分に減少したものの、2021年には製造業全体で約18兆円となり、2017 年をも上回る結果となった。中小・小規模製造業も2020年度調査では約7割の事業者で売上高、営業利益とも減少傾向だったが、2021年度調査では、売上高の「増加」及び「やや増加」が約5割、営業利益の「増加」及び「やや増加」が約4割にのぼっており、半数近くの事業者が回復に転じたとしている。
貿易収支は、2018年及び2019年は赤字だが、2020年は食料品、鉱物性燃料の赤字幅縮小や、化学製品及び電気機器の黒字幅拡大により、修正総額としては黒字に回復している。2022年3月から10月までの急激な円安相場は本白書の判断要素に含まれていないが、2022年はその影響も大きく、貿易赤字は過去最大の19.9兆円に達した。ただ、2022年11月以降は相場の潮目が変わって円高に転じており、現段階(2023年1月現在)は2022年4月ごろの水準にまで戻っていることから、この推移が保たれれば収支改善が進む可能性は高い。
総合的に我が国製造業の業況が悪いことは明らかで、具体的に課題を抽出したうえでそれらへの対応となる施策に取り組んでいく必要がある。
2.製造業の課題

製造業のこうした現状を踏まえ、製造業における現下の事業環境の変化、またその影響についての調査結果から、製造業の課題を浮き彫りにしていく。事業環境の変化については、「新型コロナウイルス感染症の感染拡大」のほか、「半導体不足」、「部素材不足」、「カーボンニュートラルへの取組」、「DXの加速」などが挙げられている。また、その影響が事業に及ぶものとしては、2020年度調査結果では「新型コロナウイルス感染症の感染拡大」が約8割と突出していたが、2021年度調査結果では「原材料価格の高騰」(24.3%⇒79.8%)、「人手不足」(選択肢なし⇒49.7%)、「半導体不足」(選択肢なし⇒49.3%)、「部素材不足」(27.4%⇒38.9%)、「物流コストの上昇」(選択肢なし⇒33.5%)といった選択肢の回答率が上昇している(三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)の「我が国ものづくり産業の課題と対応の方向性に関する調査」)。
こうした社会情勢の変化が要因となり、支障をきたした業務内容に関する2020年度調査結果と2021年度調査結果との比較では、2020年度で「営業・受注」の回答率が約8割に達していたのに対し、2021年度のそれは約5割に縮小している(同上)。逆に上昇したのが「国内からの部材の調達」(13.3%⇒55.8%)、「海外からの部材の調達」(19.4%⇒31.9%)、「物流・配送」(13.3%⇒19.2%)といった選択肢で、支障をきたした業務内容がサプライチェーン全体に広がっていることをうかがわせるものとなっている(同上)。
要するに、我が国製造業が抱える現下の課題は様々あるが、特に「原材料価格の高騰」、「人手不足」、「半導体不足」、「部素材不足」、「物流コストの上昇」が際立ったものであること、さらにその影響として、特に「国内からの部材の調達」、「海外からの部材の調達」、「物流・配送」といった業務に支障が生じているということだ。すでに政府としては各課題に対応する施策を提示し、予算も割り当てているが、依然としてその根本解決には至っていないのが実情だろう。
3. 製造業におけるDXの現状と課題

前述の課題とその影響により支障が生じている業務内容については、昨今の情勢変化により、その深刻度に濃淡の変化はあるものの、実は以前から我が国製造業のウィークポイントとして指摘されてきたものとも言える。こうした課題を克服するための有効な企業の取組の一つとしてDXが挙げられており、本白書でもその推進の状況、具体的な事例、政府の施策等がまとめられている。
ものづくりの工程・活動におけるデジタル技術(ICTやIoT、AI、周辺技術〔画像・音声認識など〕、RPAなど)については、「活用している」と回答した企業が67.2%に達しており、「その他(活用していない、または該当する工程活動がない)」と企業の31.1%を上回っている((独)労働政策研究・研修機構(JILPT)の「ものづくり産業のデジタル技術活用と人材確保・育成に関する調査」より)。ものづくりの工程・活動でのデジタル技術導入効果については、「生産性の向上」(55.6%)、「開発・リードタイムの削減」(41.5%)、「作業負担の軽減や作業効率の改善」(37.3%)、「在庫管理の効率化」(33.9%)、「高品質のものの製造」(31.4%)、「過去と同じような作業がやりやすくなる(仕事の再現率向上)」(30.0%)といった選択肢が上位を占めた(図表1)。デジタル技術の導入が確実にものづくりの競争力を引き上げていることが明らかだ。
一方、デジタル技術を活用していくうえでの課題としては、デジタル技術活用企業とデジタル技術未活用企業のいずれも「デジタル技術導入にかかるノウハウの不足」(活用企業=59.5%、未活用企業=57.0%)の回答率が高く、以下、「デジタル技術の活用にあたって先導的役割を果たすことのできる人材の不足」(活用企業=44.4%、未活用企業=36.9%)、「デジタル技術導入にかかる予算の不足」(活用企業=41.8%、未活用企業=36.9%)といった回答が続く格好となっている。
図表1 デジタル技術の活用により効果が出た項目(複数回答)

4. DXによる競争力強化をさらに加速するために

デジタル技術については、上記の通りすでに約7割の企業が導入し、その多くが生産性向上や業務効率化などの効果を実感しているが、一方、今後のDXにより我が国製造業の競争力強化をさらに推していくことについては課題が少なくないことも示されている。これら課題を克服するためにはどのような取組が必要になるのだろうか。

本白書では、①「データ流通」(企業や業種を超えて各種データを集約し、AIなどの新技術の活用により、開発・生産管理などを効率化すること)による付加価値創出と競争力増強と「データ品質」(データの種類や精度などのこと)の標準化、②デジタル人材の育成、③「企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)」強化に活用できる5Gの導入、④国際標準化への取組(5G関連技術の国際標準化)、⑤より積極的なIT投資、⑥デジタル技術を活用した物流の高度化、⑦サイバーセキュリティ対策――の7項目への取組が示されており、そのための施策もそれぞれ紹介されている。
いずれの取組もデジタル技術の活用効果を膨らませ、課題を乗り越えるために欠かせないが、ここでは超高速・大容量・多数同時接続・超低遅延を実現する次世代通信システムの5Gに着目したい。製造業では、製造工程の把握や管理、製造現場作業者への指示などを行うMES(製造実行システム)により、製造現場で取得される膨大なデータを同時に取得・管理しなければならないが、5G導入でその環境は劇的に最適化される。また、MESとERP(経営資源を管理する基幹システム)の連携においても、5Gの特性が生かせれば、大量のデータをAIで分析し、最適な稼働・制御条件をシミュレーションし、これをリアルタイムで製造現場にフィードバックすることができ、生産工程全体の最適化も実現できる。
ただ、本白書では、MES導入から5G利活用に至るまでには、工程や業務に応じた個別システムの導入のほか、製造現場の見える化やIoTプラットフォーム導入といった実績データの収集・分析から取り掛かり、段階的に取組をステップアップさせていくことの有効性も示唆されている。製造現場の各工程での情報収集がその基本であるからで、その手軽さを考慮すればハンディターミナルを活用したシステムの導入が検討に値すると考えられる。そのためのパートナー選択については、製造業の現場を知悉し、豊富な実績を持つサプライヤーが望ましく、取り扱うハンディターミナルの性能なども考慮して決定するべきだろう。
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