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ブルーモーション4月号 メインビジュアル

Indigo Ocean Vol.1

阿波藍モデル導入編 ── 青の現在地

深く、静かに広がる青。光を受けて揺らぎ、時とともに表情を変えていくその色は、ただの“色”ではなく、時間そのもののようにも感じられる。その移ろいを、時を映す存在として表現すること。それが、OCEANUSというブランドの根底にある思想だ。機能美と先進技術を追求してきたOCEANUSは、やがてある問いに行き着く。
──真のエレガンスとは何か。
その探求の中で見出したのが、日本の伝統工芸との融合だった。光を繊細に操る江戸切子、漆に意匠を重ねる京蒔絵。いずれも、単なる装飾ではなく“時間”を内包した表現である。さらにOCEANUSは、もうひとつの日本の美と出会う。それが、藍──とりわけ徳島の風土に育まれた“阿波藍”だ。「Japan Indigo - 藍 -」シリーズとして展開されてきたこの取り組みは、2020年の初登場以来、進化を重ねてきた。そして2026年5月と6月、第四弾となる新たな阿波藍モデルが登場する。
本特集では、3ヶ月にわたり阿波藍モデルの魅力を紐解いていく。まずはその導入として、これまでの歩みと、藍という存在そのものに改めて目を向けてみたい。

阿波藍という存在

人々の衣服や暮らしの中に藍染めが浸透し、“青”が生活文化として広く根づいたのは江戸時代と言われている。その広がりの中核にあったのが、徳島県の伝統的な藍「阿波藍」である。日本の藍文化を支えてきた阿波藍は、“日本の青”を形づくってきた源流ともいえる。このジャパンブルーの系譜に向き合い、その本質を腕時計という形へと昇華するために生まれたのが「Japan Indigo - 藍 -」シリーズである。
阿波藍は、単なる染料ではなく、長い時間と手仕事によって育まれる“色の文化”である。徳島県・吉野川流域の豊かな自然の中で育てられる蓼藍(タデアイ)。その葉を原料に「沈殿法」という伝統技法によって、独特の深みと透明感を併せ持つ藍色が生まれる。その工程は決して効率的なものではない。生葉1トンから得られる染料は、わずか数キログラム。さらに気温や湿度、微生物の働きまでも見極めながら管理する必要がある。つまり阿波藍とは、自然と職人の経験、その双方が重なり合って初めて成立する、極めて繊細な存在なのだ。

作業工程

阿波藍の特徴は、均一ではなく“揺らぎ”にある。同じ工程を経ても同じ色は生まれず、環境や時間によってわずかに表情を変える。OCEANUSがこの藍に惹かれた理由も、まさにそこにある。ブランドが追求してきたのは、正確に時を刻む機能と自然のような表情の両立。海もまた、静けさと揺らぎが共存し、同じ瞬間は二度と存在しない。阿波藍は、その海の性質を色として映し出す素材だ。もし均一な色を用いれば、それは完成された美になるだろう。しかしOCEANUSが求めているのは、固定された美ではない。光や時間によって表情を変え続ける、“生きた美”である。阿波藍は、正確な時を刻む時計にもうひとつの時間──揺らぎの時間を重ねる存在といえる。

阿波藍モデルの歩み

OCEANUSにおける阿波藍の表現は、単なるデザインのバリエーションではない。それは、藍という素材を通して“青とは何か”を段階的に解釈してきた、表現の進化そのものである。

第一弾:“藍を纏う”という出発点
最初の試みは、藍という存在そのものを時計の中に宿すことから始まった。白蝶貝のダイアル全面に阿波藍を着色し、素材そのものが持つ奥行きをダイレクトに引き出すアプローチ。そこに文字板見切りのグラデーションや革バンドの染色表現を重ねることで、藍染め特有の「ぼかし染め」や「遷り変わり」を視覚化していった。また濃淡の異なるブルーをパーツごとに配置し、染めの回数によって変化する藍の階調を再現。そこには、藍という色を“どう使うか”ではなく、“どう見せるか”という初期的な問いが存在していた。藍を「表現する素材」として捉えること。この段階でのテーマは、まだシンプルであった。

左から:Classic Line『OCW-T2600ALB-2AJR』/ Classic Line『OCW-T2600ALA-2AJR』/ Manta『OCW-S5000AP-2AJF』/ Manta『OCW-S5000APL-2AJF』

左から:Classic Line『OCW-T2600ALB-2AJR』/ Classic Line『OCW-T2600ALA-2AJR』/ Manta『OCW-S5000AP-2AJF』/ Manta『OCW-S5000APL-2AJF

第二弾:“色が変化する瞬間”への接近
翌年のコレクションでは、藍は静的な色ではなく、時間の中で変化する現象として捉えられるようになる。阿波藍を薄く重ねた白蝶貝は、青と紫のあいだを揺らぐような表情を見せ、まるで夕空のグラデーションのような奥行きを生み出した。インダイアルには白く染められた白蝶貝を用い、空に浮かぶ雲のようなコントラストを構成。それは、藍染めにおける「叢雲(むらくも)染め」のイメージと重なり、自然現象としての“揺らぎ”をダイアル上に再現する試みとなった。この段階で焦点は、藍そのものから“藍が生まれる瞬間の情景”へと移っていく。色ではなく、変化のプロセスをデザインするという発想である。

Manta『OCW-S5000APA-2AJF』正面画像

Manta『OCW-S5000APA-2AJF

第三弾:“藍の生成プロセス”への深化
続くコレクションで、阿波藍の表現はより内側へと踏み込んでいく。テーマとなったのは、完成された色ではなく、藍が生まれる過程そのもの。藍染めの工程に着想を得たグラデーションダイアルは、下地に藍染料を用いることで、マットで深い階調を実現。そこには、染め重ねによって色が変化していく「絞り染め」の思想が投影されている。青から紫へと移ろうベゼルのグラデーションは光の角度によって表情を変え、時間の中で揺らぐ藍の印象を映し出す。一方で、ピンクゴールドのベゼルリングと立体インデックスの組み合わせは、藍が酸化によって色を変えていく瞬間の記憶を内包している。異なる二つのアプローチによって、藍が変化し、色として立ち上がるまでのプロセスがダイアル上に描き出された。ここで阿波藍は、もはや色という域を超え、生成と変化の過程として捉えられるようになる。それは、時間・光・酸化といった自然現象そのものを翻訳するための言語へと変化している。

左:Classic Line『OCW-T4000AWB-2AJF』/ 右:Classic Line『OCW-T4000ALE-2AJR』正面画像

左:Classic Line『OCW-T4000AWB-2AJF』/ 右:Classic Line『OCW-T4000ALE-2AJR

こうして三つのフェーズを通して見えてくるのは、阿波藍が単なる素材から、次第に“時間を可視化するためのメディア”へと変化していったという事実である。その進化は、海が常に同じ姿を持たないように、ひとつの青が固定された意味を持たないことの証でもある。

そして、新たな青へ

阿波藍を用いたこれまでの取り組みは、ひとつの答えにたどり着くためのものだったのだろうか。そこにあるのは、色を再現することではない。むしろ、自然の中で絶えず変化し続ける“青”という現象を、いかに時計という存在の中に宿すかという問いである。光の当たり方で表情を変え、時間の経過とともに深みを増し、環境によってわずかに揺らぐ。そのすべてを受け止めながら、阿波藍はひとつの完成形に留まることなく、常に更新され続けてきた。そして2026年、新たな阿波藍モデルが登場する。そこでは、これまでの解釈を踏まえながらも、また新しい視点から“青”が見つめ直されることになる。

静かに広がる海のように。
あるいは、手の中で変化し続ける藍のように。
その新しい表情は、次号で明らかになる。

OCW-S7000AP-1A、OCW-T2600AP-1A、OCW-S6000AP-1A の画像

Text: Tatsuya Nakamura | Photography: Daisuke Taniguchi

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